日銀保有の国債を変動利付きにすべき理由 岩村充・早大教授が出口への準備策を提言
――日本銀行の量的金融緩和政策を理論面から支えてきた浜田宏一米イエール大学名誉教授が2016年にその理論に接して「目からウロコが落ちた」と語った「物価水準の財政理論」(FTPL、Fiscal Theory of the Price Level)。岩村先生は2000年ごろ、FTPLを日本に初めて紹介しましたね。
渡辺努一橋大学教授(当時、現在は東京大学教授)と一緒に日本のデフレを解明しようと試みているうちに、FTPLのような枠組みにたどり着いた。ただ、その頃は異端の説といった扱いで、なかなか真剣に取り上げてもらえなかった。
FTPLによって、金融政策の限界は明らかだ
――簡単に言うと、FTPLとはどんなものですか。
物価水準がどう決まるのかという問題を解くとき、そこでの財政の役割を重視する理論だ。FTPLのポイントは、政府と中央銀行は財務的に不可分であることが貨幣価値の決定に影響を与えていると考えることだ。中央銀行は自国の政府が発行する国債を買い入れて貨幣を発行しているし、そもそも中央銀行の資本勘定は財政に帰属している。
現代の中央銀行は、国の有利子債務である国債を、無利子の銀行券その他のベースマネー(銀行券+中央銀行当座預金)に変換する社会的装置だ。政府と中央銀行を財務的に連結したものを「統合政府」と言うが、その統合政府の負債の大半は国債とベースマネーなのだから、これと統合政府の債務償還財源との資産負債バランスで物価水準が決まるはずというのがFTPLの出発点だ。
――「統合政府債務償還財源」というのは、聞き慣れない言葉ですね。
現在から将来にわたっての、税収その他の全財源から政府の支出を控除した残差についての人々の予想のことだ。だから、それには政府がその気になれば行える国有財産売却や歳出削減なども含まれる。重要なのは、この統合政府債務償還とは、貨幣価値で評価した名目額でなく、実物的な財やサービスつまり実質ベースで測った統合政府の「実力」への人々の評価であることだ。
――そして、FTPLは次のような簡単な式に表現されるわけですね。
P:物価水準 M:ベースマネー B:市中保有国債 S:統合政府債務償還財源
この式の意味は、長期的には、統合政府の負債(式の分子)と資産(式の分母)はバランスしなければならない。両者をバランスさせるように実質ベースの価値(式の分母)と名目ベースの価値(式の分子)との交換比率である貨幣価値が決まる。
つまりは、貨幣価値の逆数である物価水準が決まるということだ。たとえば、政府の国債発行が増えても、将来の増税や歳出削減などで財源(=統合政府債務償還財源)は確保されるだろうと人々が予想すれば、分子も分母も増えるため、物価は動かない。
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