日銀保有の国債を変動利付きにすべき理由 岩村充・早大教授が出口への準備策を提言

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――大胆な政策であり、批判も起きそうです。

回収の見通しなきマネー供給はヘリマネと同じことだ。異次元緩和にしてもヘリマネにしても、そのいけないところは、往路(マネーの散布)はあっても復路(マネーの回収)の設計がないことだ。大事なのは、政策がヘリマネかどうかという分類学ではなく、その効果とリスクについての具体的な見極めだ。

2003年にベン・バーナンキ元FRB(米国連邦準備制度理事会)議長も変動利付き債への転換を提言したことがあった。異次元的な量的緩和に踏み込む前の日本への提言として必要だったかどうか別として、大規模緩和後の出口リスク対策としてなら理に適った議論だったと思っている。

市場の受け止め方は不確実、両方の動きに備えよ

――変動利付債への転換は、政府の財政規律にも影響を与えそうですね。

少なくとも「今は金利が安いから借り得だ」的な財政拡張論は抑制されるだろう。長期的には財政規律にプラスになる面もあるはずだ。

――仮に、変動利付き債への転換を発表するときは工夫が必要ともおっしゃっていますね。

今の日銀自身による出口論の封印にも同じことが言えるが、いくら日銀が、「復路もちゃんと考えている。それで適切かつ大胆に金融政策を運営するのだ」などと説明しても、それを受けたマーケットのセンチメントが、緩和という方向に大揺れするか、引き締め準備と受け取られるかは、不確実だ。私が、日銀保有国債の変動利付き債への転換と新規発行国債の日銀引き受けとをセットで行うことを提案しているのは、政策運営というものは、アクセルとブレーキの両方を備えるべきと思うからだ。

――ドル金利上昇で新興国通貨が下落したり、トランプ米大統領の貿易戦争が先鋭化したりと世界経済の先行きが不透明になっています。

米中対立による株価急落や南米諸国の財政破綻で次の危機があるかもしれない。そのとき、円の価値や物価期待がインフレ、デフレのどちら方向に動くかは不明だ。リーマンショックのときは円高、デフレ方向に動いたため、みんなは次も同じことが起きると考えているようだが、はたしてどうか。リーマンショックの時に円の価値が上がった理由だって、理論として完全に解析されているわけではない。今度危機が来たときに、日本政府の長期的な支払い能力が傷つくと予想されれば、円安、インフレ方向に動くこともありうる。

――日銀は金融政策の「のりしろ」、つまり景気が悪くなったときの政策余地がないと指摘されています。

だからこそ、ヘリマネとセットでの変動利付き債への転換を提案している。仮に円高、デフレ方向へのショックであれば、日銀はヘリマネ的な政策に追い込まれるだろう。変動利付き債転換で復路の設計ができていれば、それでもリスクは小さくなる。逆に、円安、インフレ方向へのショックなら、物価が上昇するため、日銀は量的緩和をやめ、マネーの回収に乗り出さねばならない。どちらになっても往路復路両方の設計があることが重要だ。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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