日銀保有の国債を変動利付きにすべき理由 岩村充・早大教授が出口への準備策を提言

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
岩村充(いわむら みつる) /1950年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行を経て、1998年から早稲田大学教授。主な著書に『金融政策に未来はあるか』『貨幣進化論』『中央銀行が終わる日』『新しい物価理論』など。

――では、金融政策はこのFTPL式の中ではどこに登場するのですか。

分子の市中保有国債と統合政府債務償還財源は、現在から将来にわたっての割引現在価値で表現される。このうち市中保有国債の割引率に使われるのが名目金利であり、これは中央銀行の金融政策で決定される。金融政策で物価水準を操作できる理由はここにある。

一方、分母の統合政府債務償還財源は実質ベースなので、割引率は自然利子率(実質金利)なのだが、この自然利子率は技術や人口動態などの基礎的条件で決まってしまう。分母は金融政策では操作できない外部条件なのだ。

――FTPL式の中で金融政策はどう作用するのですか。

中央銀行が名目金利を引き上げれば、割引率の増加で分子の市中保有国債現在価値は小さくなるため、物価水準は低下する。反対に、名目金利を引き下げれば物価水準は上昇するはずだが、名目金利にはゼロの下限があり、日銀はずっと以前からこの下限にぶつかっている。もはや日銀による金利操作では物価を上昇させられない。

――FTPLで考えると、日銀の量的緩和政策に効果がなかったことがわかるということですね。

先ほど言ったように日銀は金利操作による物価支持力を失っている。そこで始めた量的緩和とは、日銀が大規模に市中から国債を購入して、その分をベースマネーとして市場に供給することだが、分子のベースマネーをいくら増やしても、同じ額だけ分子の市中保有国債が減るので物価には意味がないことは明らかだろう。

ヘリマネなら物価は上がるが、制御不能のリスクも

――逆にいうと、市中保有国債を減らさずにベースマネーを増やすことができれば、物価は上昇するということになりますね。

それが、俗に言う「ヘリコプターマネー(ヘリマネ)」だ。2003年にジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授が日本に提案した政府紙幣が典型例だろう。政府が将来的な回収への準備をせずに紙幣を刷ってばらまくなら、FTPL式の分子であるベースマネーだけを増やすことになるので物価は上昇する。

――FTPLでは、クリストファー・シムズ米プリンストン大学教授が日本に対し「インフレ目標が達成されるまで、消費増税と財政黒字化目標を凍結すると宣言したらどうか」と提案しましたが、どういう意味ですか。

これは、FTPL式の分母=統合政府債務償還財源の予想のほうに働きかけようとするものだ。ただ、このシムズ案がうまくいくかはいささか疑問だ。目標が達成されたら結局消費増税などが復活すると人々が考えれば、結局、統合政府債務償還財源への予想を変化させることはできないからだ。人々の期待に働きかける政策は難しい。

次ページ日銀保有の国債をいつでも売れる準備を
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事