あなたの行動履歴は「VR」によって丸裸になる VR機が始めている究極個人情報の収集
爆発的普及の前夜にあるといわれるVR(仮想現実)。テレビやタブレット端末と同じように、いずれVR機も一般家庭のリビングルームに置かれるありふれた家電の1つとなるだろう。だが、VRはこれまで人類が手にしたどんなメディアとも違う、強烈なインパクトを私たちにもたらす――。そう語るのは、20年にわたり心理学の観点からVR研究を続けてきた、スタンフォード大学のジェレミー・ベイレンソン教授だ。
世界各地の巨大テック企業とも共同研究を重ね、あのマーク・ザッカーバーグがオキュラス買収直前にその研究室を訪れたことでも知られる、VR業界の第一人者だ。彼は、新刊『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』(文藝春秋)の中で、VRが私たちの社会にもたらすインパクトの一つとして"デジタル・フットプリント"を取り上げている。
デジタル・フットプリントとは何か
"デジタル・フットプリント"とは、インターネットやコンピュータなどを利用した個人の行動履歴、すなわち"デジタルの足跡"を指す。たとえば携帯電話を持ち歩けば位置情報によりあなたがいつ、どこにいたかがすべてわかる。フェイスブックで"いいね"を押すたびに、あなたの好みや政治思想などの判断材料が蓄積される。
とはいえ、それ自体は特に新しい話ではない。何年も前からアマゾンは顧客の購買履歴からユーザーが好みそうな本を勧めてくる。フェイスブックやグーグルはユーザーの好みを分析して的確な広告を見せる。
だが、こうした"デジタル・フットプリント"の世界は、VRによってまったく新たなステージに突入する。VRはこれまでとは桁違いの質と量の個人情報を収集可能にするのだ。VRはユーザーの身体の動きをリアルタイムで詳細に把握しなければ成り立たない。ユーザーの頭部の動きに合わせ、仮想世界を一秒間に何十回という高頻度で再描写するためだ。
360度、上を向いても左を向いても仮想世界が見えるのは、コンピュータがユーザーの細かな動きをトラッキングし、それに合わせて仮想世界をアップデートし続けるからである。それは頭部に限った話ではない。高性能のVR機器ならば、視線の動きや手足の動き、ちょっと「ビクッとした」身体のこわばりなども計測・記録できるようになる。ユーザーに関して、スマホやパソコンよりはるかに多くのデータを収集するのである。
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