あなたの行動履歴は「VR」によって丸裸になる VR機が始めている究極個人情報の収集

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こうしたバーチャル教室は原理的には無限に複製できるため、優れた教育の低価格化や無償化を後押しする原動力にもなるだろう。

一方で、このように本人さえ気づかないようなかすかな動きから、心を読み取れるようになれば、逆におぞましい悪用も可能になる。

『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

今年になって、フェイスブック利用者5000万人分もの個人データが2016年の米大統領選などに不正に利用されたことが明らかになり、世界は衝撃を受けた。

だが、よく考えてみてほしい。今のフェイスブックが収集できる個人データとはせいぜい「いいね」の傾向や友人関係程度である。もし将来、人々がVRでバーチャル授業を受けたり、仮想空間で友人と一緒にテレビやゲームを楽しむようになったら(おそらくそうなる、とベイレンソン教授は確信している)、VRのトラッキング機能によってどれほど詳細なわれわれの深層心理が、"無意識の動き"の中から収集されることだろう? 

たとえばVR内でニュース番組を見ながらどんな動作をするかによって、誰にも話したことのない(または自分でも意識していない)あなたの政治傾向が読み取れるかもしれない。

大衆の操作は今よりはるかに簡単に

そうしたデータを解析し、ユーザー一人ひとりに最適化されたフェイクニュースをでっちあげれば、大衆の"操作"は今よりはるかに簡単になるだろう。ベイレンソン教授は「私はVRがプロパガンダを広めるためのすばらしい道具になるだろうと確信している」と明言する。なにしろ現実のように見えるVRというのは、文字や二次元映像よりはるかに強く人々の感情を動かすからだ。本書では、「VR内での体験を、人の脳は現実の出来事として処理してしまう」という衝撃的な事実も明かされている。

ベイレンソン教授はVR技術によって世の中をより良くできると確信しており、本の中では医療やスポーツトレーニングなど多くの分野でのすばらしい活用事例をいくつも取り上げている。だが同時に、科学者らしい客観的な視線を失わず、VRに潜む数々の危険についてもしっかりと指摘している。近い将来、各家庭で当たり前の存在となるであろうVR。その強烈な可能性と危険性を知るために、本書は最適な1冊と言えるだろう。

倉田 幸信 翻訳者

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くらた ゆきのぶ / Yukinobu Kurata

1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。朝日新聞記者、『週刊ダイヤモンド』記者、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』編集者を経て、2008年よりフリーランス翻訳者。主な訳書に『物理2600年の歴史を変えた51のスケッチ』(ドン・S・シモンズ、プレジデント社)、『資本主義に未来はある――私たちが直視すべき14の課題』(フィリップ・コトラー、ダイヤモンド社)など。

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