あなたの行動履歴は「VR」によって丸裸になる VR機が始めている究極個人情報の収集

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メディア利用の歴史の中で、さらに言えば社会科学の研究ツールとしても、没入型VRほど人間の動作を正確に、高頻度で、こっそりと計測できる道具は存在したことがない。しかもそうして集めたデータは極めて含蓄に富み、ユーザー個人について多くのことを物語る。口に出す言葉と違い、非言語行動は無意識に行われる。その人の精神状態、感情、自己認識をダイレクトに映し出す鏡なのだ。誰でも自分が口に出す言葉には注意を払える。だが、自分のちょっとした動きやジェスチャーを常にコントロールできる人はきわめて少ない。
(『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』)

ベイレンソン教授は、VRの収集する"デジタル・フットプリント"を「行動の告白」と呼ぶ。そして、こうしたデータを分析すれば、たとえば「工場労働者のミスや乱暴運転を予測したり、オンラインショッピングの利用者が商品に興味を持った瞬間を知ることさえできるようになる」という。これを正しく活用すれば、あらゆる分野で変革が起きるだろう。なかでも本書は、最も優れた利用法の1つとして教育への活用を挙げている。

テストの点数の良しあしを正確に予想

ベイレンソン教授は2014年、教師1人が生徒1人に対して授業を行う様子をVR用トラッキング装置で計測した。そのデータを使って授業中の教師と生徒のボディランゲージを分析したところ、その後に行われた学期末テストの点数の良しあしを、生徒ごとに正確に予想できた。その理由は、VR装置を使うことで、未知のかすかな動作パターンを見つけ出すことができたからだという。

その多くは人間の目なら見逃すであろう微妙な動きだ。例えば点数予測の手がかりとなった特徴的な動作パターンの一つは「頭部と胴体の合計歪度」と名付けた生徒の動きだ。この特徴的な数値分布が実際にどんな動きに見えるのかをビジュアル化するのは極めて難しいが、頭部をまっすぐにしている人が時々うなずく動作によってこの歪みが生まれるときもある。
(『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』)

生身の教師に教わるのではなく、生徒がゴーグルを着けて教師のアバター(仮想世界における分身)に教えてもらうバーチャル教室を想像してほしい。

ジェレミー・ベイレンソン教授(写真:© Debbie Hill)

生徒が100人の大教室では、生身の教師なら一人ひとりに対応したきめ細かな教え方はできない。

だが、100人の生徒が皆VRで授業を受けていれば、バーチャル教師は一人ひとりの細かな動きをすべてデータとして把握し、ちょっとした集中力の欠如や授業内容が理解できずに混乱している様子などを見逃さず、それぞれの生徒に応じた対応が可能になる。しかも、生徒の非言語行動を自動的にまねすることで、「カメレオン効果」(同じような姿勢やしぐさをまねすると、相手に対する影響力や説得力を最大化できるという効果。いくつもの心理学実験で証明されている)を利用し、さらに学習効果を高めることができるという。

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