《財務・会計講座》NPV法による投資判断~NPV=0とは何を意味するのか(事業リスクと超過収益力)~
投資判断の方法としてNPV法というものがある。NPVとは「Net Present Value」のことで正味現在価値と呼ばれている。資産が生み出す将来のキャッシュフローをそのキャッシュフローのリスクの大きさに見合った割引率で現在価値に割り戻した上で、そこからその資産を取得するのに必要な初期投資額を差し引いた純額である。
初期投資額を控除してプラス(つまりNPV>0)ということは、その投資は元本を超えてお釣がくる、つまり得であるから、投資を行うべきであるということになる。
例えば、ある投資対象の資産の現在価値を1億円とした場合、その資産を9千万円で買えるのであれば、得な取引(つまりNPV=100百万円−90百万円=+10百万円)であることから購入すべきと言うことになる。反対に、8千万円の現在価値しかない資産の販売価格が9千万円であれば(つまりNPV=80百万円−90百万円=▲10百万円)、損をするので購入しないということになる。
それでは「NPV=0」の場合はどうしたらよいであろうか?この質問をファイナンス理論のクラスで受講生にすると、「手間をかけて投資を行っても後に何も残らないので、投資すべきではない」との答えが返ってくることが多い。果たしてNPV=0という投資案件を実施することは、本当に徒労なのだろうか?
■NPV=0の投資案件実施は徒労か否か
NPVの定義をもう一回見てみよう。投資が将来生み出すキャッシュフローをそのキャッシュフローのリスクの大きさに見合った割引率で現在価値に割戻し、初期投資額を差し引いた残り物がNPVである。例えば、経費・税金を差し引いた後で毎年15億円のリターンが10年間続く投資プロジェクトで、このプロジェクトを実行するにあたって107億円の初期投資が必要だとする。このプロジェクトのリスクは平均的な大きさであり、その割引率は6.5%とする。この場合の本プロジェクトのNPVは、1年後から10年後までの毎年15億円を年率6.5%で割り戻した金額の総額から初期投資額である107億円を差し引いた額となる。計算すると107.8億円となることから、初期投資額である107億円を差し引いたNPV=0.8億円となり、実施すべきとなる。なお、このプロジェクトの投資利回り(つまり、107億円投資して、毎年15億円返ってくるような投資案件の利回り(=IRR:内部収益率))は6.67%と計算される。例えば、このプロジェクトであればそのリスクの大きさからみて年率6.67%の利回りを投資家として期待(期待利回り)している仮定しよう。割引率が6.67%であれば、前述のように本プロジェクトのNPV=0となる。これを投資家の視点に立って考えると、このプロジェクトには107億円を投資したが、10年間の間に元利を含めて年率で6.67%のリターンをもたらしたと言うことを意味している。つまり、このプロジェクトは投資家が期待している通りに過不足なくリターンを生み出したことになる。であれば、投資家は少なくとも失望はしない。したがって、もっと良い利回りの投資案件がないのであれば、このプロジェクトは実施すべきであるということになる。
ところで、このプロジェクトの期待利回りが6.67%ということは、この種の投資案件のリスクの大きさに見合った平均的な利回りが6.67%であるということを意味している。つまり、この種の事業においては、平均的なノウハウを持った経営者が平均的な成功を収めた場合に利回りが6.67%となるということである。
それではNPV>0とは何を意味するのであろうか?平均的なノウハウを持った経営者が平均的に成功を収めた場合のNPVは0である。ということは、NPVがプラスになるためには、平均的以上のノウハウを持った経営者がこのプロジェクトを実行し、平均的以上のリターンを生み出さねばならないということを意味する。つまりNPVとは経済学でいうところの「(将来の)超過利潤」を現在価値に割引いたものであることが分かる。