ゴミの中で孤独死寸前、元会社員が陥る危機 70代元キャリアウーマンの「大変な生活」
警察が遺体を運び出した後は、すぐに清掃業者を呼び、清掃させる。それでも夏場だと、死後1か月が経過した遺体は、ハエとうじが大量発生して溶解している。物件の回転率が高いのだけが救いだと、藤田さんは苦笑いする。
ニッセイ基礎研究所の調査によると、日本で、1年間に起こる孤独死者はおよそ3万人。しかし、孤独死の特殊清掃を手掛ける業者に聞くと、「その数倍はある」と断言する業者もいる。その孤独死の大半を占めているのがセルフネグレクトだ。
重度の糖尿病でも、毎朝ファミレスでとんかつ
訪問看護師で、セルフネグレクトなどのよろず相談を受ける「さえずりの会」を主宰している山下みゆきさん(54歳)も、孤独死予備軍と長年向き合ってきた一人だ。今、気を揉んでいるのは、糖尿病を患っている佐藤幸恵さん(仮名・70代・女性)だ。佐藤さんは、血糖値が一度、計測器の針が振り切れるほどに高くなり、路上で倒れているのを発見され、救急搬送された。
それ以降、山下さんは、この女性を数日おきに訪問して、血糖値を測ったり、薬を服用させるなどの訪問看護を行っている。女性が住む埼玉県の3LDKのマンションは、幾層にもごみが堆積した足の踏み場がないほどのゴミ屋敷。ドアを開けると、すぐにツンと異様な臭いが鼻につく。奥にあるキッチンは、もはやたどり着くことすらできないほどのゴミの山だ。
佐藤さんは、お風呂にも入らず、同じ洋服を毎日着ているせいで、お尻のあたりは、生地が摩耗して、下半身の一部が露出している状態だった。
佐藤さんは、常時おむつをつけており、口の空いたビニール袋の中には、糞便にまみれたおむつが、そのまま置きっぱなしになっている。
そこからは、この世のものとは思えない凄まじい悪臭が漂っている。
俗に言う、典型的なセルフネグレクトだ。セルフネグレクトとは、簡単に言うと、自己放任のこと。病気などにより、身の回りのことができなくなったりするなどの状態を指し、この佐藤さんのようなゴミ屋敷もそれに当たる。孤独死者の約7割以上はこのセルフネグレクトが占めているという調査結果もあり、深刻な社会問題となっている。
山下さんはセルフネグレクトについてこう語る。
「いつか、佐藤さんが家の中で倒れて、孤独死しているんじゃないかと気になって仕方ないんです。私たち医療者が訪問できるのは、数日おきなので、毎日様子を見に行けるわけじゃない。一番の心配は、偏った食生活による急死ですね。そのマンションのすぐ近くにファミレスがあるんですが、佐藤さんは、毎朝、ファミレスでとんかつ、ハンバーグを食べているみたいなんです。そんな不摂生な生活をやめようとしない。それで血糖値が一気に跳ね上がるんです。いつ高血糖の発作が起こって、意識障害で倒れていてもおかしくないというくらい、危険な状態になっているんです」