ゴミの中で孤独死寸前、元会社員が陥る危機 70代元キャリアウーマンの「大変な生活」
2016年10月にはゴミ屋敷の火災が大々的に報道された。
福島県郡山市で、地元でも知られていたゴミ屋敷が全焼し、住民とみられる男性が死亡しているのが発見されたのだ。ゴミ屋敷は、ただでさえ燃えやすいものが堆積しており、もし周囲にでも引火したら、大惨事になりかねないだろう。
また、これからの季節で心配されるのが、熱中症死だ。高齢者は、体温の調整機能が鈍くなるため、室内でも夏場は熱中症にかかりやすい。
そのため、いつ、佐藤さんが家の中で孤独死しているか、山下さんは気が気ではないのだという。
最後は本人の自覚にかかっている
しかし、一番のネックは本人が、そんな生活に問題があるとは思っていないことが多いことだ。
「佐藤さんもそうなのですが、ゴミ屋敷に住んでいる方は、まずゴミをゴミとは思っていないことが多いんです。彼らにとっては、ゴミではなくて、全てが宝物なんです。身体面においては、“私なんて、いつ死んでもいいのよ”と言いながら、自分の身体を痛めつけるような高カロリーの好きな物を、好きなだけ食べるんです。ある意味、ご本人にとっては、それが幸せなのかなと思うときさえあります。
でも、それでは医療者としては良くないから、糖尿病の注射をしたり、自分でもコントロールできるように、何度も訓練をしてもらうんです。でも、結局それは一時的なもの。最後は本人の自覚というか、認識にかかっているので、そこがセルフネグレクトという問題の根深いところだと思います。それには、私たちのような医療者も含めて、誰かが常時介入していくことが大切ですね」
しかし頭ごなしに食生活を注意しても、さらに自暴自棄になり、拒絶されることも多い。そこで山下さんは、佐藤さんがぬいぐるみ好きで、テレビショッピングで買ったぬいぐるみに向かって話し掛けているのを利用した。自分が好きなものに関しては、佐藤さんは目を輝かせて話してくれる。そんな些細(ささい)な会話をとっかかりにして、少しずつ信頼を得ることで、医療行為にもしぶしぶながら応じてもらっているのだという。
それでも、佐藤さんはかろうじて医療の網の目に掛かっている分、まだ幸せなほうかもしれない。高齢者は、民生委員の訪問が典型的だが、いろいろな人の網の目に掛かりやすい。しかし、若年者が一度セルフネグレクトに陥ると、誰の目にも触れないまま死を迎えることもある。
孤独死の大半を占めるセルフネグレクトは、失業や離婚、病気などさまざまなことがきっかけで起こるもので、誰でもそのような状態に陥る可能性がある。孤独死予備軍1000万人時代――、決して他人事ではないのだ。
(文/菅野久美子)
菅野久美子(かんの・くみこ)
1982年、宮崎県生まれ。ノンフィクション・ライター。最新刊は、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)などがある。孤独死や特殊清掃の生々しい現場にスポットを当てた、『中年の孤独死が止まらない!』などの記事を『週刊SPA!』『週刊実話ザ・タブー』等、多数の媒体で執筆中。
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