ゴミの中で孤独死寸前、元会社員が陥る危機 70代元キャリアウーマンの「大変な生活」

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佐藤さんは、大学卒業後、都内で秘書として定年まで勤め上げた。いわば、バリバリのキャリアウーマン。3LDKのマンションは持ち家で、ローンは完済済みだ。独身でひとり暮らし。兄弟はいるが、親族は、ゴミ屋敷ということもあって誰も彼女に関わろうとはしないのだという。年金の中から、好きな物を食べたいときに食べて、買いたいものを買う。そんな生活がたたって、深刻な糖尿病を患って数年が経過していた。

最近ではマンションのゴミ置き場にすら行くことが面倒とあってか、共有フロアにおむつの汚物が入ったゴミ袋をそのまま置きっぱなしにするようになった。そのため、あまりの異臭で同じマンションに住む周囲の住民から苦情が絶えない。それを耳にしたマンションの管理人が、しぶしぶ撤去するという日々が続いているのだという。

買い物依存とセルフネグレクト

佐藤さんはしかも極度の買い物依存だった。テレビショッピングやポストに投函されたチラシを見ると、欲求を抑えられずにすぐ電話して購入してしまう。しかし、商品がいざ届くと、興味を失って、箱の中身も空けずに放置する。その繰り返しによって、部屋は未開封の段ボールや、新品の洋服、家電などで溢れ返り、ゴミ屋敷になっていく。

山下さんは、セルフネグレクトの人は、買い物依存の率が高いという。

「バッグを買ったり、洋服を買ったり、靴を買ったり。それで一瞬は心が満たされるんです。テレビショッピングとか、視覚的なものに刺激されて、どんどん際限なく注文してしまうんです。でも、捨てられずに部屋の中にモノが溜まっていく。その繰り返しでゴミ屋敷になってしまう。あとは意外にも、女性も家電製品が好きなんですよ。可愛い色の新商品が出たりとか、パステル系の家電を見るとつい欲しくなって、持っているのに、同じ家電を2個も3個も購入してしまうんです」

ゴミ屋敷などのセルフネグレクトは、本人の命に関わることもある。2016年5月に千葉県北西部の住宅地で、両足が壊死してしまった高齢の女性が、家の中で身体が半分ゴミに埋もれた状態から、危機一髪で救出されていたというニュースが世間を騒がせた。

セルフネグレクトには、孤独死の危険が常につきまとうと言っても過言ではない。

佐藤さんも孤独死寸前の状態から救出された一人だ。

ある日、食事配達業者の男性が訪問した際に、全く身動きがとれなくなっている佐藤さんを発見した。佐藤さんは崩れ落ちたゴミの中に埋もれ、圧迫骨折を起こして、その場から動けなくなってもがいていたのだ。苦し気にうめきながら、必死の表情で、業者の男性に水を求めた。そのまま放置されていたら孤独死してもおかしくはなかった。佐藤さんは「水道の水でいいから、ペットボトルに入れて今すぐちょうだい!!」と絶叫した。

「それでガブガブ呑んで、何とか生還したんです。かなりの体重がある方なので、ドスンと座って、そのままごみに埋もれて、骨折してしまったんでしょう。身動きが取れなかったらしく、皮膚がただれていて、褥瘡(じょくそう=床ずれのこと)もできていましたね。すぐに病院に搬送されたのですが、その骨折が治ると、また病院から自宅に戻されてしまい、結局、今もゴミ屋敷で生活しています」

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