「引きこもりの人は美容室で『どんなお仕事をされているんですか?』という質問が胸に刺さるから嫌いというケースも多いのですが、私は小さい頃から美容室が大好きです。今担当していただいている美容師さんはフレンドリーな人で、夏はバーベキューをしたり、富士山に一緒に登ったりしています。子どもの頃は友達がいなかった私が今、友達と遊べるような感覚を味わえて、とても楽しいです」(小林さん)
当事者同士のハラスメントに悩まされる
だんだんと社会とつながりを持っていった小林さんだったが、発達障害の自助会でハラスメントを受けたと語る。
「最初は楽しく参加し、情報発信のスタッフなどもやっていました。そして、1年ほど経った頃、自助会の方から『まなみちゃんは今後どうしたいの?』と聞かれたので、いろいろと悩みました。その数年前に父を亡くしたのですが、亡くなった日の夜、『もうお父さんがいないのだから、まなみも自分のことは自分でやりなさい』とまじめな顔で姉に言われたことを思い出し、きちんと自活できるよう働きたいと思いました。
そして、就職に向けて力を入れ始めたり、引きこもり当事者の会の運営に参加し始めたりしたら、発達障害自助会の方が『自助会の活動より就職を優先したのか!』とか、『なんで若い子がほかの団体の運営にかかわっているんだ、調子に乗るだけだ!』と激怒したらしいんです。その後、攻撃的なメールが来たり、私のことをよく思っていないとわかるような内容のSNSの投稿なども見掛けたりしました」(小林さん)
また、障害者手帳を取る際もハラスメントがあったと小林さんは強く主張する。ピアサポーターの男性から、手帳取得とは関係ない連絡が何度も来たり、セクハラにあたる発言をされたりして苦しんだ。ピアサポーターの男性も発達障害当事者だった。
定型発達の人でも、セクハラの定義や男女の距離感については難しい場合がある。ADHDやASDの特性には衝動性やコミュニケーションの取り方が独特といったものがあるが、そのためセクハラトラブルが起きてしまったというケースを、ほかの当事者からも聞いたことがある。もちろん、特性は人によって濃度が違うので、発達障害当事者全員が全員、トラブルを起こすわけではないことは、はっきり言っておきたい。
当事者支援や自助会についてはさまざまな考えを持つ人がいるため、その分少しずつ違ったコンセプトの当事者会が存在している。この連載にも「当事者がいちばん悩んでいるのは就労なので、当事者の生きざまだけでなく、もっと就労に関する役立つ情報を発信してほしい」という読者の意見が届いたこともあった。しかし、「就労だけがゴールではない」と乃浬子さんは語る。
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