「発達障害」の29歳が引きこもりを脱せた理由

当事者同士のハラスメントに悩むことも

「もう時代は変わってきています。就労がゴールというとらえ方の人はまだまだ多いのですが、それは人それぞれ違うと思うのです。現にハーバード大学を卒業された『ポジティブ心理学』の第一人者ショーン・エイカー氏が、スーパープレゼンテーションで『就職(成功)したら幸せになる時代ではない、幸せになったら成功できる時代だ』と言っていました。

幸せに感じたところから自己受容が起こり、自己肯定感が高まって、自己開示につながり、そしてお相手のために自己表現をすることで他者とつながっていくので、結果的に“就労”という形になるんです。自己受容が始まる前段階で、無理やり就職をしても長続きすることはかなり難しいと感じています」(乃浬子さん)

仕事をしながら情報発信したほうが説得力はある

現在、小林さんは希望していたアパレル会社に就職。商品管理の業務を行いながら、大好きなオシャレを日々楽しんでいる。この日も「和」を伝えたいと、色の心理学では平和や癒やしを表すという、緑色のワンピースを身にまとい、髪の毛にもかわいらしい緑色のリボンをつけていた。

当事者のなかには、小林さんが代官山などのオシャレな美容室に通うことを批判する人もいたという。しかし、「引きこもりに限らず、自尊心の低さゆえ、自分なんかがオシャレを楽しんではいけないと思い込んでいらっしゃる人がとても多いのが現状です。そんな皆さまに外見を変えることで内面も劇的に変化することを伝え続けたい」と乃浬子さん。

「今後はできるだけ長く、今の会社を続けることが目標です。ファッションと美容についてはもっと学びたいし、そのために学校にも通い直したいです。自助会のお手伝いよりも就職を優先したことで嫌味を言われたこともありましたが、きちんとお仕事をしたうえで発達障害に関して発信をしたほうが、説得力があるのではないかと思います」(小林さん)

『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音 』(イースト・プレス)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

生きづらさの緩和を求めて参加した自助会や、障害者手帳を取る際に起こったハラスメント。今まで発達障害の特性による生きづらさにスポットを当ててきたが、発達障害の特性は人それぞれであり、それが複雑に絡み合った末の生きづらさとなっていることを実感した取材だった。

しかし、今回は自助会側には話を聞いていないため、自助会側にもまた何か事情があった可能性もないとは言い切れない。いくつかの自助会や当事者会に顔を出し「自分には合わない」と感じて居場所を変えたり、自ら居場所をつくったりした当事者も知っている。それほど、発達障害による生きづらさはひとくくりにできないのだ。

話しているかぎり、小林さんと乃浬子さんはとても相性のいいコンビに思えた。小林さんにはファッションと美容という、大好きなモノがある。そして、自立のための仕事も続けられている。今後、小林さんの生きづらさはますます解放へと向かうのではないかと感じられた。

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