教育のため専業主婦になる、中国人妻の実際 「会社に行っている場合ではない」妻たち

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実は馬さん自身も、「先生と保護者の人間関係は以前と比べて、かなり変化してきた」と感じている。

「以前は自分の子どもに最大限の利益があるように、との思いから、積極的に先生にプレゼントをしてきました。家電製品とか、以前はあらゆるものを差し上げたものです。中国には『教師節』(教師の日)というのがあるのですが、その日に先生にプレゼントをするのは“暗黙の了解”でした。

でも、昨年、びっくりしたのは、少なくとも、うちの子どもの学校では、先生へのプレゼントが一切禁止になったんです。もちろん、もともと暗黙の了解でしたから、公に『贈り物禁止』というお知らせも来ないのですが、私は担任の先生から直接断られました。そこで、保護者間のSNSで相談し、クラス全員で、感謝の気持ちを込めて小さなプレゼントをしよう、という話になったんです。高価ではない300元くらいの贈り物(約5000円相当)なら、構わないでしょうと。でも、それすらも先生からは『こういうことはよろしくない』と断られてしまい、本当に驚きました。

今の政権になってから急に厳しくなったのか、あるいは先生も保護者との“濃い付き合い”や人間関係に疲れ果ててきたのか、校長先生から厳しくいわれたのか、理由ははっきりとはわからないのですが……」

多様化する価値観

中国には「孟母三遷」という有名なことわざがある。孟子の母が、最初は遠くにあった住居を、子どものために、学校の近くに3回も引っ越しし、子どもの教育のためによりよい環境を整えようとした有名な故事だ。この言葉からもわかるとおり、中国人の親には、子どもの教育のためならば、自分の時間やエネルギーをすべて使うくらい情熱を傾ける人も少なくない。

だが、その一方で、短期間に社会の価値観や人々の考え方が多様化し、そうした状況に疲れ果てたり、疑問を感じたり、反動も起きてきている。幼少時から子どもを海外留学させるというスピンアウトを選ぶ家庭も増えている。そのこともまた今の中国社会の現実といえそうだ。

中島 恵 ジャーナリスト

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なかじま けい / Kei Nakajima

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、フリ―に。著書に『なぜ中国人は財布を持たないのか』『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)などがある。

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