教育のため専業主婦になる、中国人妻の実際

「会社に行っている場合ではない」妻たち

日本ではPTAの役員を積極的に引き受けたい、と思っている保護者は、そう多くはいないのではないだろうか。母親もフルタイムで働いていれば物理的に時間が取れないし、クラスの父兄や先生など大勢の人に気を使わなければならないPTAの役員になることは、「面倒だから避けたい」「神経を使うから嫌だ」と思っている人のほうが多いかもしれない。

だが、中国では180度、状況が異なる。PTAの役員になることは、まず保護者自身にとって名誉で、周囲にも自慢できること。そして、「うちの子どもが先生から特別に目をかけてもらえるチャンス」と超ポジティブにとらえる傾向があるからだ。だから、周囲からの推薦や、なんとなく雰囲気によって役員にさせられてしまった、という消極的な決まり方は少なく、「私、ぜひ役員をやりたいと思います!」と自ら立候補する。

中国でも昨今、保護者同士や担任の先生との連絡は中国のSNS、ウィーチャットで取り合うのが当たり前だ。先生も含めて、保護者が試験や課外活動のことなど情報を頻繁に共有するが、もし自分がPTAの役員になりたいと思ったら、積極的に意見を発信し、自己アピールする。

会社の仕事が多忙な母親ならば、昼間からSNSを見たり、即座に返信できないこともあるが(だからこそ、会社を辞めて母親業に専念するわけだが)、SNSなので、できるだけ早くレスポンスを送らなければ、ほかの保護者に出遅れてしまうし、「いいところ」を見せられない。つまり、PTA役員になるというチャンスを逃してしまいかねないのだ。

専業主婦である馬さんは、先生からの提案やほかのPTAからのメッセージに「素早く、かつ丁寧に、できるだけ知的な文面で返信し、積極的に行動した。私の学歴も評価の対象になった」(本人の弁)ことにより、見事PTA役員に選出された。

学校によって多少異なるが、1クラス(馬さんの子どものクラスは40人)にPTA役員は3人。希望がかなった馬さんはほかの2人と連携を取って、学校行事に協力した結果、「先生とのコミュニケーションがよくなって、子どもへの対応もとてもよかった」と感じている。

教育熱や受験競争がエスカレートした結果

筆者の記憶では、2000年代以降、経済的なゆとりが出てきたことと、個人が不動産を購入できるようになり、重点校といわれるよい学校がある学区への転居が相次いだことなどから、より一層、教育熱や受験競争がエスカレートし、現在に至っている。しかし、教育熱がこれほど盛り上がっている中国でも、時代の変化だろうか。当然といえば当然といえるが、親たちの教育熱にばらつきが出てきたと感じるような話も小耳に挟んだ。

同じ北京市の別の小学校で役員をしていたある父親は「合唱大会の曲をSNS上で決めなければならないとき、保護者や役員の意見が割れて、大もめにもめたんです。仕事中もずっとSNSを見ていなければならず、心身ともに疲弊しました。そこまで自分を犠牲にして役員をやる必要はないのではないか。親が口出ししすぎでは、と初めて疑問に思った出来事でした」と話してくれた。

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