アトピーで地獄を見た女子の「爽快な生き様」 私たちはその壮絶な実態を知らなすぎる

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ところが、untickleの運営は順調な一方、野村さん自身のアトピーの症状悪化は止まらなかった。寝込まざるをえない状態になり、活動休止に追い込まれる。

「何も解決できていないという思いがすごくありました。自分のアトピーさえコントロールできないのに、人の症状についてどうこう言える立場じゃないなって。それに、untickleに情報がたくさん集ったとしても、一人ひとりの症状の改善には時間がかかる。どうすればいいのか、そもそも続ける意味があるのか、すごく悩みました」

活動を終えることも考えつつ、「もう少しだけ」と続けているうちに、課題解決のヒントになりえる波が社会に起きていた。体の状態を数値で可視化できる、体組織計の流行だ。この流れはアトピーにも必ず来るだろう、と野村さんは確信した。実際に2017年、アトピー患者向けに、皮膚をかいた回数がわかる「イッチ・トラッカー」というアプリが発表された。

「これまで、アトピーの状態を可視化できる方法やツールはなかったんです。きちんと活用すれば、必ず症状の改善に役立つし、対策が楽にもなると思いました」

untickleでも、身体周波数をチェックできる専用デバイスを導入。サイトでの情報発信と並行して、サロンを開設。医師や管理栄養士などの専門家と連携し、当事者の客観的な診断データをもとに、一人ひとりに最適な対策を提案するサービスを開始した。

「アトピーの当事者は、失敗経験が多いんです。だから、こうしたほうがいい、と提案しても、なかなか納得できなかったりする。客観的数値をもとに提案していくことで、腹落ちするんですね。そういう意味でもデバイスの導入は有効でした」

サロンの評判は上々。多いと週に3回通う人もいるという。ただし、このサービスはあくまで入り口です、と野村さん。今後さらに増えていくであろう、アトピーの状態を数値化できる手段や方法を積極的に導入し、すべての患者に最適な情報を提供していきたい、と展望を語る。

死にたくなるほどつらい思いを抱えている方たちへ

「アトピーのために何かを我慢するのではなく…」(撮影:尾形文繁)

野村さんいわく、アトピーは完治が本当に難しい。8年間症状が出ていなかったのに、翌年にいきなり発症することも珍しくないという。長く付き合っていくことが基本となるため、できるだけコントロールできる状況をつくり、日常生活を楽にすることが重要だと話す。

「アトピーのために何かを我慢するのではなく、私はしたいことをして人生を楽しみたい。たとえばラーメンが好きなのに、アトピーにはよくないかも、と我慢したくありません。そもそも、我慢したところで完治するかはわからない。であれば、したいことをしたうえで、なるべく発症しないように予防するなど、できる範囲で最善の対策をしていきたいのです」

当事者として、現在もアトピーと闘う野村さん。いつまた重度の症状が訪れるかはわからない。それでも、アトピーで苦しんでいるすべての人に、手を差し伸べたいという。

「重度の症状で苦しみ、死にたくなるほどつらい思いを抱えている方もいると思う。苦しいときは、ぜひ連絡をください。私がホットラインになれれば」

untickleのキャッチコピーは、「アトピーのムズムズをワクワクに」だ。目指す環境の実現には、当事者を含めた関係者だけでなく、周囲の理解やサポートも欠かせないだろう。アトピーはかゆいだけの病気ではないことを、知ることからまず始めたい。

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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