「全盲と弱視」それでも彼女が明るく笑うワケ 小2からの寮生活、上京、そして仕事と恋

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重度の視覚障害を持つ松田昌美さんが、底抜けに明るい理由とは…(撮影:尾形文繁)

ブラインドライター、という仕事をご存じだろうか。テープ起こし(インタビューや講演などの音声データをテキストデータに起こすこと)を専門にしている人々で、特徴は全員が視覚障害を持っていること。

視力がない、あるいは極めて弱い一方、優れた聴力を生かして、質の高いテープ起こしを行っている。誤字脱字がないか、チェックするのは四肢麻痺を抱えたサポートメンバーだ。

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障害者というとどうしても、ハンディキャップを背負った社会的弱者、という印象がついて回る。しかしブラインドライターたちは、社会に守られるだけでなく、自らの能力を生かし、主体的に未来を切り拓いてきた。その先駆けであるのが、松田昌美さん(32歳)だ。

松田さんは右目が全盲で、左目は極度の弱視。視力は光や色が何となく見えて、目の前に出された指の数がわかる程度だという。

だがその一方、人並み外れた聴力を持っている。倍速の音声でも聞き取ることができ、複数人が同時に話していても、誰が何を話しているかわかる。音の響きなどから、会場の大きさや形も把握できるという。その聴力は街中でも発揮され、走ってくるタクシーが空車かどうか、電車が混んでいるかそうでないか、トラックがどの運送会社のものか、などもわかる。

仕事の傍ら、松田さんは人生も思い切り楽しんでいる。オシャレが大好きで、取材時の洋服はお気に入りのワンピース。髪の色も鮮やかな赤で、メイクもバッチリ決めている。インタビューでは自身の恋愛について語り、ダメ男に引っかかった話も飛び出すなど、まさに普通の女子と変わらない日々を謳歌している。障害を抱えつつ、彼女はなぜこれほどに前向きなのだろう。

太陽が次第に沈むように、見えなくなった

静岡県で生まれた松田さん。出生時、体重は1300グラムしかなく、仮死状態だった。命はとりとめたものの、未熟児網膜症と網膜剥離を発症。その影響で、4歳のときに右目を失明した。

「太陽がだんだん沈んでいくように、自分の視界が暗くなっていったことを覚えています。でも、眠れば次の日には見えるようになるだろう、と思っていました。子どもだったし、そんなに大変なことだと受け止めていませんでしたね」

異変を感じた家族に病院へ連れていかれ、8時間に及ぶ手術をしたが、視力は回復しなかった。

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