「全盲と弱視」それでも彼女が明るく笑うワケ 小2からの寮生活、上京、そして仕事と恋

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仕事としてテープ起こしを受けた松田さん。そのクオリティに、依頼主も大満足だった。能力を生かし、もっとテープ起こしを請けるべきだと助言され、立ち上げたWEBサイトが反響を呼んだ。依頼が相次ぎ、2017年末に会社を退職。“ブラインドライター”という造語を掲げ、テープ起こしの請負専門として独立した。現在、ほぼ毎日のように締め切りに追われているという。

「休みはほとんどないです。依頼があれば、ゴールデンウイークでも年末年始でも、帰省しているときも仕事しています。お母さんはよく拗ねてますよ、せっかく(実家に)帰ってきたのに、って(笑)」

その活動はブラインドライターだけにとどまらない。2018年2月に「Co-CoLife☆女子部」が、障害・難病を抱えた方専門のタレント事務所を立ち上げ、松田さんも所属することになったのだ。これからしていきたいことについて、目を輝かせながら話す。

「浜崎あゆみさんと一緒にお仕事したいです! 大好きすぎて、もし会ったら失神しちゃうかもしれない(笑)。あとドラマや映画で、視覚障害者の役を当事者の私が演じたいです。モデルとしてファッション誌にも載りたいですし、シャンプーや化粧品のCMにも出たい。本も書きたいです」

障害があるからと言って、限られた選択肢のなかだけで生きたくない。あらゆる可能性のなかから、自分のしたいことをしていきたい。そんな思いを松田さんは強く持っている。オシャレや化粧や恋愛についても同様だ。

「目が見えないのに何でお化粧するの、何でオシャレするの、って言われることがあります。けれど、何でしたらいけないのって思う。恋愛もそう。視力がなくても恋愛はしていきたいですね。これまでも、自分の力が足りないからこの人には届かない、と思ったことはあっても、視覚に障害があるからという理由で諦めたことはないです」

「全力で今を生きること」それだけを考える

視力が悪いことを言い訳にしない。今を全力で生きることだけを考え、行動してきた。結果、松田さんは道を切り拓いた。彼女にとって、障害の有無はさして大きな問題ではないのかもしれない。生き様を通して、松田さんはそう教えてくれたようだった。

最後に、松田さんの現在の視力の状態について聞いた。残された左目の視力は、いつ失われてもおかしくないと、医師から宣告されているという。度重なる手術によって目の組織が弱り、これ以上処置もできない。しかし、松田さんは悲観していない。何とも彼女らしい、前向きな言葉を、笑顔で語った。

「視力がなくなる怖さはありますが、それで命を奪われるわけではないですし。見えなくなったら見えなくなったで、その後の人生をどうするか考えればいい。私、全力で今を生きることしか考えていないんですよ。子どものころ、網膜が破れるから運動は禁止されていたのですが、体育も球技もマラソンも全部やりましたから(笑)。そのスタンスは今も変わっていません」

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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