京大卒35歳の彼がフリーで講師を務める事情 発達障害のため普通に仕事ができなかった

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32歳のとき子どもが生まれ、育児のために妻が仕事を辞めた。これからは1人で妻と子どもを食べさせていかねばならない。そんなプレッシャーのある中、なんとかフリーランスとして仕事を成功させようと竹村さんは必死で努力をする。今まで取材してきた当事者の中にも「会社員として働けないから、フリーライターやブロガーで食べていきたい」と語る人がいた。しかし、フリーライターで生計を立てている筆者だからこそ、フリーの厳しさを知っており、夢を語る当事者への返答に困ることがある。

「フリーランスは特にB to Bの場合、“能力×仕事のしやすさ”だと思うんです。能力のほうは経験を重ねて鍛えていけばいいですが、発達障害の人の場合、仕事のしやすさの部分がネックになる人が多いのかなと思います。私でいうと、講師としての能力はそれなりに評価されているけど、仕事のしやすさの面で以前はルールや納期を守れない、ケアレスミスをするという失敗をしてきました。

社会人となってから10年かけて、仕事のしやすさの面はある程度コントロールできるようになりました。フリーとして働くうえでもう1つ重要なのは、断る勇気。『この人は発達障害の特性を理解してくれない』と思ったり、『管理業務までやってくれ』と言われたりしたとき、応じてしまうと失敗してしまう。昔は断ったら仕事が減ってしまうという恐怖から、しんどい思いをしてまで引き受けていましたが、最近はようやく『それは私ができる仕事ではありません』と断れるようになりました」(竹村さん)

竹村さんは、能力を上げるために必要なのは自分が向いていると思ったテーマに時間をかけることだとも語る。フリーとしてうまくいっていない人はテーマをコロコロ変える傾向があるという。竹村さんは2010年から講師を始め、安定して仕事が来るレベルの能力になったのは2016年。それまで累計約3000時間、人前に立って教えてきて、6年間かけてようやく能力を開花させた。もともと教える才能はあると思っていたが、才能があるのに地道な努力ができていない人が多いように感じるという。

10年がかりでようやくスタートラインに

「私は社会に出てから何とか生計を立てられるようになるまで10年かかりましたが、大学時代の友人たちはその10年間に大企業で出世したり、会社を起こして成功した人もいます。自分が10年間悪戦苦闘してきてようやくスタートラインに立てたとき、みんながすでに成功しているのを見ると、負い目を感じることもあります。でも今、自分は好きな仕事をやれて生活をできているのはとても幸せなことだと思います」(竹村さん)

竹村さんは今、講師の仕事以外にも発達障害当事者向けのサイトでコラムの仕事も請け負っている。しかし、ADHDの特性がゆえ、〆切に遅れそうになることが多い。そこで、コラムの仕事や〆切のある資料作成のときのみ、ADHDの薬のコンサータを服用することがある。そうすると、圧倒的に効率がよくなるという。なぜ、普段から服用しないのだろうか。

「講師をしているときは、ADHDの特性がいい方面で出ているようで、コンサータがなくても全力でいけるんです。講義の準備の段階や納期がある仕事の場合は服用したほうがいいのですが、私の場合は効果が切れると体に負担がかかってすごく疲れてしまいますので、医師と相談のうえ、飲む場面は選んでいます。また、もう1つのADHDの薬であるストラテラについては、薬が効いているときは講義中の反応が0.5秒くらい遅れる感じがします。それをストレスに感じてしまうので飲むのをやめました」(竹村さん)

2016年には発達障害者支援法の一部が改正され、特性に応じた就労の確保に努めるように定められているが、それに応じている企業が少ないのが現状だ。就労に悩んでいる当事者は、フリーランスとして働くのも1つの手なのだと竹村さんの話を聞いて感じた。

しかし、それで生活していくためには血のにじむような努力と時間が必要なことも事実である。また、今回の竹村さんの話は発達障害当事者だけでなく、すでにフリーで働いている人や、フリーに興味を持つ人へのアドバイスともとらえられるように思えた。

姫野 桂 フリーライター

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ひめの けい / Kei Himeno

1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをしつつヴィジュアル系バンドの追っかけに明け暮れる。現在は週刊誌やWebなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好きすぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。趣味はサウナ。

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