全力で走れる最先端「義足」が健常者を救う日 花形「100メートル走」で健常者を抜く時代へ

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常用の義足は切断部にはめるソケット部分も含めると価格が100万円を超えることもザラだ。だが、保険や自治体が用意する補助金が使えるため、個人の負担はこのうちの1、2割ほど。国内で主に利用されている義足はチタンやカーボンファイバーなどの素材が使われており、快適に使用するには緻密な計測、テスト装着から実装へといくつもの工程が必要なため、価格を落とすことはなかなか難しい。

競技用の板バネも素材はカーボンファイバーなど。絶妙な角度に曲げるには技術とそれなりの装置が必要で、こちらも低価格にすることは容易ではない。保険や補助金の使えない競技用義足を手にするには個人の負担が大きく、気楽な気持ちでは試せない。遠藤氏は「走るって、いちばん手軽にできるスポーツ。だから、壁をなくしたいのです」と話す。

花形「100メートル走」で健常者の記録を抜く時代に

遠藤氏は「東京2020パラリンピックは人々の固定概念をひっくり返すことになると思う」と予測する。陸上競技の花形、100メートル走で健常者の記録を抜く「世界一の早さを目指す」というのだ。そして、競技における挑戦が、障害者というげたを履かずとも健常者と対等に暮らせる世の中への一歩につながると説く。

健常者と義足利用者が区別なく生活できるようにすることが、僕たちの役割(撮影:尾形文繁)

「競技用義足はいわばF1です。ここで得た技術を普段使いの義足に落とし込んでいくことで、義足をつけているとは思えない滑らかな動きが実現できるようになるかもしれない。健常者と義足利用者が区別なく生活できるようにすることが、僕たちの役割だと思っています」(遠藤氏)

加齢による歩行困難にも義足開発で得た情報、データが役立つ可能性もあると話す。

「義足は装着したらすぐに歩けたり、走れたりするものではなく、うまく使うには練習が必要です。その過程は、歩行のリハビリへと応用ができるかもしれません。人間は走ることができれば歩くことも楽にできるということもわかってきています」とは、身体能力の解析を研究してきた遠藤氏だからこその視点である。

義足開発を通して人間の可能性を広げようと試みる。障害、加齢による身体の不自由さにとらわれない「ボーダーレスな社会」に向けて、日本での開発が始まっている。

宮本 さおり フリーランス記者

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みやもと さおり / Saori Miyamoto

地方紙記者を経てフリーランス記者に。2児の母として「教育」や「女性の働き方」をテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。

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