全力で走れる最先端「義足」が健常者を救う日 花形「100メートル走」で健常者を抜く時代へ

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競技用義足の開発はドイツ、アイスランドといった欧州が主流で国内のものはまだ珍しい。欧米と比べてマーケットが小さいことも日本製の競技用義足が遅れた1つの要因になっている。

「生活に必要な義足は保険が適用になりますが、競技用義足は適用外。すべて自費です。1本数十万円、耐久性は1、2年でメンテナンスや買い替えも必要となれば、アスリートになるくらい本気で走ろうと思う人しか手が出ませんよね」(遠藤氏)

Xiborg代表取締役の遠藤謙氏(撮影:尾形文繁)

また、競技用義足は自分では着用できず、着けるには義肢装具士の力を借りなければならない。切断面につけるソケットと、義足部分をつなげるネジは、微妙な締め方の違いでバランスが取れなくなるからだ。「本当は眼鏡のように用途に合わせて気軽に付け替えができたらいいのですが、まだそこまでには至っていません」。下腿障害者が走ることを楽しむにはこうした壁がいくつもある。

そんな壁を乗り越えさせてくれるのが「ギソクの図書館」。クラウドファンディングにより631人から支援を得てオープンした。月に一度、義肢装具士が来て希望者に板バネと呼ばれる競技用義足をつけてくれる。

「ギソクの図書館」は豊洲にできた全天候型ランニング施設の「新豊洲 Brillia ランニングスタジアム」内にあり、装着後には早速走ることができる。料金は施設利用料と「ギソクの図書館」利用費を合わせて1000円。高額な投資をせずに気軽に走ることにチャレンジできるとあって子どもから大人まで、すでに延べ100人弱の利用があったという。

日本の市場は小さいが……

競技用義足の開発や、選手を育成する団体の出現で競技人口は増えてきている。これまで、エントリーすればすぐに決勝という状況だった国内のパラ陸上競技大会も、予選が行われるほどになり、参加者の増加は確かにあるようだ。しかし、障害者自体の数が日本では少ないため、競技人口が飛躍的に伸びることはないだろうともいわれている。

前出の杉原氏によれば「アメリカなどは日本と比べて戦場で足をなくす兵士も多い」ため、そもそも義足を必要とする人の分母が違うというのだ。利用人口が少なければ、競技をしてみようという人の数も当然少なく、開発や利用に公的財源の投資が薄くなるのは想像にかたくない。

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