韓国社会は「男性至上主義」に染まっている 知韓派の台湾人から見た韓国権力者の行状

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権仁淑氏は学生だった1986年、民主化活動中に警察に拘束され、取り調べ中に警察官から性的拷問を受けた被害者だ。当時、この事件が明るみに出ると、韓国人全体の憤激を引き起こした。全斗煥(チョン・ドファン)元大統領の軍事独裁政権の下で、警察が公権力を乱用して暴力をふるったことに世論は激怒し、このような悪質な人権蹂躙の不法行為は、翌1987年に軍政という暴政を倒す最後のエンジンとなった。

権仁淑氏は一生の名誉と不幸な婚姻を犠牲にし、性的拷問事件によって女性たちの意識を啓発したのだ。

だからこそ、権仁淑氏が女性政策とその対策組織のトップとして起用されたことは象徴的な意義がある。「女性学」の教育に一生をささげてきた同氏の経験は、韓国女性の自立意識の向上をさらに強化することになった。

ところが、それでも有名人に対する告発はやまなかった。著名な詩人であり、何度もノーベル文学賞候補に挙げられたことがある高銀(コ・ウン)氏が「性醜行」していたことを相次いで告発され、公開の場での謝罪に追い込まれた。

ノーベル賞候補者もセクハラで告発

さらに3月5日には忠清(チュンチョン)南道知事の安熙正(アン・ヒジョン)氏が、女性秘書から「8カ月内に4回もレイプされた」とテレビで告発された。その8回のうちの最後の1回は、「#MeToo」運動が韓国でも広がりを見せ、女性検察官がセクハラを告発した時期だったというのだ。

安熙正氏(写真:REUTERS/Kim Kyung-Hoon/File Photo)

安熙正氏は「韓国政界の希望の星」とされ、文大統領の唯一の後継者だと考えられていた。

この女性秘書の告発によって彼はただちに謝罪の声明を発表し、知事の職を辞任した。この事件は、韓国での「#MeToo」運動の火にさらに油を注ぐことになり、その火の勢いはますます激しさを増している。

安熙正氏は、その後も別の女性から被害を告発されている。政界の希望の星は隕石のように一瞬にして地に落ち、跡形もなく消え去った。さらにその3日後、今度は有名俳優の趙敏基(チョ・ミンギ)氏が多数の女子学生をレイプしたと告発され、勤務先の大学を解雇された。あげく、本人は3月9日に自殺した。

この事件に、韓国全土はさらなる衝撃を受けた。有名人は、知名度が高まることで束縛がなくなり、自己抑制が効かなくなる。保守的な社会的雰囲気の中で、彼らは告発されることはないだろうと考え、行動をますますエスカレートさせる。

実際には、セクハラやレイプなどの事件は、加害者が有名人かどうかにかかわらず、世界のどの国でも起きうることだ。しかし有名人らは、自分の知名度におごり、権勢をふるって自分勝手なことをやりがちだ。

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