昭和の大観光地「熱海」本当に元気になったか V字回復報道が目立つ現地で分かったこと
一方中古のマンションは格安の物件が多い。昭和30年代、40年代に建てられたマンションの老朽化が問題になっており、40平米台で100万円台も見掛ける。
また、熱海市内の企業などの寮・保養所の数は1983年度には601あったが、2015年度には175にまで激減している(熱海市資料)。レジャーが多様化し、企業が福利厚生施設として熱海に寮・保養所を設ける意味が薄れていると思われる。
熱海市は別荘の利用促進、滞在中の消費拡大に注力しており、「別荘コンシェルジュ」として対応する職員もいる。約9400人いる別荘所有者に対して市側はアンケートを実施しており不満の声も聞こえる。
たとえば、熱海は高低差が大きい地域で自動車でないと移動しづらい地区も多い。駐車場が圧倒的に少なく、自動車で食事に行こうと思っても、駐車スペース不足という問題もある。また観光中心の街なのでスーパーなどの生活用品を扱う店が少なく、また物価が高いという指摘もあり、都内などで買い物を済ませてから熱海に来るという実態もアンケートから明らかになっている。
さらに、熱海市は固定資産税のほかに日本で唯一、別荘等所有税を課していることで知られている。建築年数に関係なく、1平米あたり年額650円が、別荘所有者に課税されている。50平米だと年間3万2500円だ。資産価値でなく、物件の広さで課税額が決まるため、古い物件ほど割高感が強くなり、それがさらに市場価格を下げる方向に影響しているように思う。事実、前出のアンケートの中でも同税への批判は多い。
魅力はやはり温泉だろう。源泉総数が500を超え、42度以上の高温泉がその約9割を占め、平均温度は約63度である。旅館とともにほとんどのリゾートマンションに供給されている。これに海や山の景色が加われば、温泉好きの日本人には魅力的なリゾート地であることには変わりはない。
高齢化し、減り続ける住民
熱海市というと大規模な市のように思われるが、人口は3万8000人ほどしかいない。毎年300万人の宿泊客を迎える都市としてはかなり少ない印象だ。事実、人口は減り続けており、ピーク時の1965年には5万4000人がいた。
また、高齢化も顕著で、1965年と2015年とを比べると、15歳未満人口(年少人口)の割合は 19.2% から 7.1%に、15歳から64歳人口(生産年齢人口)の割合は 71.1% から 48.2% に減少するなど大きく変化し、高齢化率 44.7%という超高齢化社会で、「日本の30年後の姿」(熱海市)となっている。現実に市内のバスに乗ると地元の乗客は高齢者が目立つ。
貧困も深刻だ。2015年度の市の人口に占める生活保護受給者の割合は1.66%で県の0.83%の2倍に上る。受給者のうち65歳以上の割合は78.8%でこれも県の50.0%を大きく上回る。高度経済成長期に観光関連で社会保障が十分でない仕事に就いていた人たちが老後を迎えた結果であるという(2017年4月4日付読売新聞東京版)。
海を見下ろす億ションで暮らす富裕層と、貧困に苦しむ高齢住民、このコントラストは異常だ。生産年齢人口が集まる産業の誘致も急務だろう。
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