日本型組織の女性管理職がイケてない訳 なぜ女性は「お局」化するのか?

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必要なのは保護(=規制)よりもフェアな競争環境

私が米国留学で知りたかったことのひとつは「米国の職場は、女性活用のためにどんなシステムがあるのか」ということだった。そして、結論から言うと「法律上の女性保護は日本のほうがはるかに手厚い」が、「米国のほうが女が出世している」のである。米国の女性研修医は「出産予定日まで働く」「勤務中に陣痛が来た」というのは割とフツーだったし、産後休暇も「年休+病気休暇+研究日etcをかき集めて8~12週間程度」といったレベルで復職(そもそも米国の病院だと年休そのものが6~8週あるので、「長めの休暇」といった印象になる)が一般的だった。

「出産した研修にはローテートの順番を変えて、出産直後には体の負担の少ない部門と交代」ということはあったが、順番が変わるだけで、最終的な当直の総数はレジデント終了年限までには帳尻を合わせなければならない。あるいは、希望すれば1年間の無給休暇がもらえるが、この場合は専門医になるのが同期より1年遅れ、生涯賃金はそれなりに減少する。

米国に留学した直後、「これがコロンビア大の医者かよ!ってレベルのドクターもわりといるよね」と、長くいる日本人に言ったところ「でもね、そういう困ったドクターは、だんだんカンファの席で見かけなくなるよ」と教わったことがある。確かに、米国は労働者を簡単にクビにできる社会である。

だからこそ、若者・女性・外国人に「おまえ、いっちょやってみるか?」的なチャンスが回ってくるのである。教授ポストの多くは数年の契約であり、研究や臨床で結果を出せなかった教授は、任期満了とともに有能な若手にその席を譲らなければならない。教授に就任した後も定年まで安泰ではなく、絶えず競争にさらされるのである。

アラブのことわざに「ウソつきは昼飯にありつけるが晩飯は無理だ」とあるが、私は「卑怯者はたまたま1回の勝負には勝てても、ずうっと勝ち続けることは無理」という意味と解釈している。競争が教授就任時1回ならば、「ゴマすりスキル」だけで勝つこともありうるが、米国のように絶えず競争が必要な社会では、「ゴマすり」「他人蹴落とし」スキルだけで勝ち続けることは不可能なのである。

当然のことながら、米国でも「有能だが上司と折り合いが悪くてクビ」はありうるが、そういうケースでは同業他社から「おまえ、ウチに来て、いっちょやってみるか?」的なオファーもやってくる。ゆえに、米国の医大教授は臨床なり研究なり、なにがしかの分野に傑出した人材が多い(あるいはそうでなくなった教授は、任期終了時に雇止めされるだけのことである)。

女性活用といっても、結局のところ即効性のある特効薬はない。政府にできることは、むしろ余計な保護(=規制とも言う)は廃し、老若男女にとって公平な競争環境の整備を整えるべきである。管理職に就いても結果をだせなかった人材は男女を問わず降格・更迭できるような法整備のほうが、最終的には健全な労働市場や、ひいては風通しのよい社会を創ることができるのではないかと思う。

筒井 冨美 ノマドドクター

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つつい ふみ

地方の一般的家庭に育ち、小中高大とも国公立卒。米国留学、大学講師を経てフリーランス麻酔科医。医学博士。日米の心臓麻酔専門医。テレビ朝日ドラマ「ドクターX」取材協力

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