金銭的に厳しい環境で育ったためか、小学校の卒業文集に書いた未来年表もおカネの稼ぎ方が書かれていた。
「小学生の頃は漫画家になりたかったんですが、卒業文集には映画監督になりたいって書いてますね。
まずは働きながらビデオを買い集めて、レンタルビデオ屋をはじめる。レンタルビデオ屋で儲かったおカネで映画館を作り、買い集めたビデオを上映する。それで儲けたおカネで『童夢』(大友克洋)を実写映画化する。それで儲かったおカネで『AKIRA』(大友克洋)を実写映画化する……って書いてました。買ったビデオを貸したり上映したりしてる時点で違法なんですが(笑)。それでも小学生にしては妙にカネの流れに具体的な夢ですよね」
中学校に入ると、中洲にある映画館に通うようになった。
中学2年生の夏休みにレンタルで見た『狂い咲きサンダーロード』(石井聰亙監督)と深夜テレビで見た『ファントム・オブ・パラダイス』(ブライアン・デ・パルマ監督)に大きな影響を受けた。白石監督はこの2本の作品が、その後の方向性を決定づけたと語る。
教科書やノートに描いた漫画
小学校時代から勉強に力を入れたことはなく、宿題にも取り組めない性格だった。
初めての達成感を得たのは、中学時代にノートに描いた漫画だった。『悪魔の教頭モンスター』というタイトルで、青年と廃棄物に突っ込んでバケモノ化した教頭先生が死闘を繰り広げるという、映画『悪魔の毒々モンスター』(ロイド・カウフマン、マイケル・ハーツ監督)のパロディを基本にした内容だった。
なぜ教頭先生が敵かというと、白石監督が教頭先生に叩かれたのを根に持っていたからだ。漫画『BE FREE!』(江川達也)、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(押井守)など当時、白石監督がハマっていた作品の要素を取り入れながら最後まで描いた。
次に達成感を得たのは高校時代、授業の合間に数学の教科書のスミに描いた『丸顔くん』という漫画だった。
丸顔の男が歩いていて、好戦的な野良猫と出会いただただ戦うという内容だった。1年の数学の授業中、授業はそっちのけで丁寧に描いた。1年以上かけて2年のときに最後まで描ききった。
「宿題はできないけど、漫画なら最後までやれるんだなって手応えはありました。ただ漫画は、雑誌に応募してる人たちのレベルがものすごく高いですから、どう考えても勝てるわけないなって見切りをつけました」
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