44歳「ホラー映画」を極める男の並外れた執念 「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」を生んだ発想

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四苦八苦しているところに、白石監督の心霊ドキュメンタリーを見たプロデューサーから連絡が入った。話しているうち、一緒に企画をやりましょうということになった。

そうしてできた『ノロイ』は初の全国公開の映画になる。

上京して8年で全国映画の監督になれたのは、比較的早いといえる。

「おカネはそこそこ入ったので借金を減らすことができたのはありがたかったです。映画監督としてやっていけそうだなと思い結婚もしました。ただし達成感はあまりなかったですね。自分の評価が上がったとも感じませんでした。実際それ以降仕事が増えたということもないし、周りが変わるということもなかったですね」

以後『口裂け女』『タカダワタル的ゼロ』と劇場映画が続いた。白石監督的には満足な出来にはならなかった。劇場映画といえば聞こえはいいが1本の作品を作って稼げる額は決して楽な生活ができるものではない。

「共働きだったのでなんとかなりました。妻のほうが収入がよくてずいぶん助けられましたね。執筆しかすることがない時期は、駅まで奥さんを自転車で送ってました。朝ごはん、昼の妻の弁当、晩ごはんも作ってました。それくらいしかできることもないので(笑)」

なかなか自分の撮りたい作品を作るチャンスは回ってこなかった。

少しでも新しいことをやろうとするとプロデューサーから

「前例がないからダメ」

「ちょっと難しすぎる」

みたいな理由で却下されてしまう。

どんな提案をしても、結局プロデューサーがやりたいと思うことしかやらせてもらえない。自由がきくのは枝葉の部分だけだった。

「自分が面白いと思うものを、思うがままに作らせてもらえれば、きっとみんなが面白がってくれる作品になるのに……。そういう作品を作れていないままの状態なのをずっとまずいなあと思ってました」

低予算ホラーOVの企画が舞い込む

こうなったら自主製作で自分の作りたい作品を撮るか……と思っていたところへ低予算ホラーOVの企画が舞い込んできた。

この企画はほかでやれなかったことをやってほしいという、比較的自由度の高い依頼だった。

それまでの仕事は、

「ホラーを撮ってる監督みたいだしホラー作品をやらせてみるかな」

くらいの感覚しかプロデューサー側になかったがこの企画のプロデューサーは白石監督作品の面白さをわかったうえで依頼してきた。

これが『オカルト』という作品になり、劇場公開もされることになった。

『オカルト』(筆者撮影)

「予算は少なかったですけど、かなり好きに撮らせてもらえました。『オカルト』でやっと自分のやりたいことがやれたと思いました」

その直後に撮影した『グロテスク』も「上映できないくらい残酷なことをやってほしい」という依頼だったので、楽しく撮影することができた。

その後も学生時代に撮った『暴力人間』のリファイン作品である『バチアタリ暴力人間』をはじめ、『テケテケ』『シロメ』など定期的に作品は世に出していた。

「ただ興行的には鳴かず飛ばずな感じが続き、なかなか大きい作品が撮れなくてイライラしていました」

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