「大人の語彙力」はなぜ急速に失われたのか 「ぶっちゃけ」を丁寧に言えますか?

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●今、おカネがなくて

急な飲み会などに誘われて、「今、おカネがないから、一緒に行けないんだよね」と、そのまま言うのは、ちょっとかっこ悪いですね。そのときに使えるのが、「持ち合わせ」です。 「持ち合わせ」とは、現在持っている金銭、所持金のこと。おカネがないことを「今持ち合わせがなくて」と表現します。「金欠病で」という表現もいいかもしれません。

●ぶっちゃけ

「ぶっちゃけ」は、ぶっちゃける(打明)を略した語。「ぶっちゃける」は「ぶちあける」から転じた言葉で、隠すことなく語るという意味です。

「ぶっちゃけ」は、2000 年代から使われるようになり、2003 年にテレビドラマ「GOOD LUCK!!」で俳優の木村拓哉さんがセリフで多用したことから、一般に浸透しました。まさか目上の人に「ぶっちゃけ、言わせてもらいますが……」などと口にしている人はいないとは思いますが、つい仕事の場面で使ってしまう方もいるのではないでしょうか。

言い換え表現としては、「ありていに言えば」があります。

「有り体」は、ありきたりなこと、ありふれたことのほか、ありのままであること。「ありていに言えば」は、「隠すことなく」という意味です。ほかにも、「率直に言うと」「本音を言うと」などの言葉も近い言葉です。

友だち同士のおしゃべりだけでは「語彙力」は増えない

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私は研究者として、日本人の国語力、日本語力をずっと見てきましたが、各世代で気になるのは、漢語の活用の力が年々落ち続けていることです。

私は活字文化を推進する委員会に所属しているぐらいなのですが、大きな流れとしては、漢籍というものを中心とした勉強から離れてきたということが原因の1つ。もう1つは、そもそも活字離れが進んでしまっていることです。

ここでいう活字とは、新聞や書籍などで使われている活字を指します。それが日本人の教養、あるいは頭の働きそのものを支えていると考えています。

活字文化から離れ、友だち同士のおしゃべりだけを続けていても、語彙は増えません。語彙の少ない友だちと延々と話しても、やっぱり語彙は増えない。500語ぐらいですべての用が足りてしまう。場合によっては、「すごい」とか「ヤバい」などと言っていたら、20語ぐらいですべての会話が終わってしまう。そうすると、新しい言葉に出会えないわけです。

書き文字である活字というものを吸収していくことによって、日本語として使える語彙力を飛躍的に高めることができるのです。その際に、この言葉というのはこういう大本があるんだとか、この漢字はこういうふうな成り立ちなんだとか、そういうところも同時に知ることができると、記憶が定着しやすくなり、応用もしやすくなっていきます。

齋藤 孝 明治大学教授

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さいとう たかし / Takashi Saito

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著者、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『読書力』(岩波書店)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『質問力』(筑摩書房)、『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)、『読書する人だけがたどり着ける場所』(SBクリエイティブ)ほか多数。著書発行部数は1000万部を超える。

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