米国でささやかれる安倍退陣後の「次の首相」 何にもない日本の選挙への関心は低いが…

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「(新政権になって)最も困るのは、現在安倍首相とトランプ大統領の関係がうまくいっていることを日々感謝している外務省と国務省の役人たちだろう」と、グリーン氏は話す。「トランプ大統領と、(韓国の)文在寅大統領との関係のような困ったものにはきっとならないにしろ、岸田氏や石破氏が首相になった場合、今ほどいい関係は望めない」。

デミング氏も、「もし安倍首相が去れば、小泉純一郎政権と第2次安倍政権の間の期間のような、日本の政治的リーダーシップが弱い期間が再来するおそれがある」と指摘する。「それは日米関係にとっても、世界にとってもよいことではない。新政権は、安倍首相ほど、トランプ大統領を巧みに扱えるとは思えない」。

ウォール街は黒田日銀総裁の先行きに関心

安倍首相の退陣をあまり懸念していない専門家もいる。「たとえ、自民党内に若干の政策変更があったとしても、岸田氏のような人物に引き継がれることになれば、トランプ政権が大きく戸惑うことはないだろう」と、かつての防衛官僚であり、ワシントンの卓越したシンクタンクであるカーネギー国際平和基金でいちばんの日本専門家である、ジェームズ・スコフは主張する。

「政権が変わることの影響は大きなものにはならないのではないか。なぜなら、日本はトランプ政権のアジア政策における最も重要な要素であり、日米間の問題は、トランプ政権がアジアのほかの地域で抱えている問題と比較して小さなものだからだ」

一方、ウォール街は政権交代にそれなりの関心を示しているようだ。「日本銀行の黒田(東彦)総裁の先行きについて、機関投資家やヘッジファンドから多く問い合わせがきている」と、シンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)のグリーン氏は明かす。「安倍首相の退陣は、日本国債や為替、マクロ経済問題のほとんどに直接影響を与えると見ている」。

ただ、ウォール街も日本での政権交代よりも、北朝鮮との戦争のインパクトを心配している。日本人はこれを、「ジャパンパッシング」と嘆くかもしれない。しかし、それはこうともとらえられる。グローバル政治が混渾としている中で、日本の退屈な「何もない」選挙は、今日の世界において唯一の「グッドニュース」なのかもしれないのだ。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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