「解雇の金銭解決」が労働者には不利な理由 使用者側が低コストでクビにできる仕組みだ
ちまたでは、解雇の場合の解決金の相場など(「月給の●カ月分」など)とまことしやかに言われることもあるが、現実には、交渉の力関係や事案の性質によって、金額にはかなりの幅があるのが実際である。
制度を導入しなくても、金銭解決は普通に行われている
このように現在においても解雇の金銭解決(会社側が金銭を支払うことを条件に労働者が任意に退職する形で和解する)は普通に行われている。その現実を踏まえたうえで、あえて解雇の金銭解決制度を導入する意味がどこにあるのか。
結局のところ、これまで行われてきた使用者が解決金を支払う必要に迫られるメカニズムが機能しないところで解決金によって解雇を解決することにつながるため、必然的に解決金の相場が現状より下落することが予想される。
これは使用者側にとっては、仮に不当解雇と評価された場合であっても低コストで解雇が正当化される(労働者に退職してもらえる)可能性が得られる一方、労働者側にとってはメリットを見いだすことは困難である。解雇の金銭解決制度は、結果的には、使用者側の安易な解雇を助長することにつながりかねない。
解雇については現状の法律では厳格な規制が設けられている。労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めている(解雇権濫用法理)。
この法律の定めによれば、建前としては、よほどのことがないかぎり労働者を解雇することはできないことになっている。ただ、現実には、法律の要件を満たさないにもかかわらず解雇をすることが横行している。そして、多くの場合は、解雇された労働者は泣き寝入りをしているのが実態である。
解雇の金銭解決制度の導入を考えるにはこのような現実を踏まえる必要がある。労働者は、「解雇=意に反する雇用喪失」により、生計を維持し継続的な収入を得る場を失うという経済的不利益のみならず、労働による人格の発現、発展や幸福追求の場を失い、社会的評価が低下するという人格的不利益などの回復が容易でない大きな不利益を被りかねない。
だからこそ、法は厳格な解雇制限規定を設けて、不当解雇がなされないように規制しているのである。今回の解雇の金銭解決制度導入の提案はこのような労働者を保護するための法の趣旨と整合するのか、解雇紛争の実態を踏まえた上で見極める必要がある。
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