他人の店の中に開店!レストラン界の革命児 かつてない出店方法で話題騒然

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2年で1300万円を寄付するまでに

週に1晩しかオープンしていなかったミッション・チャイニーズ・フードは、そのうち2晩営業となり、そしてついには毎晩営業となった。折しも世の中は、大恐慌以来とも言われる不況の時代に突入していた。飾り気がなく、しかし感激するほどおいしく、これまでにない新鮮な味をびっくりするほどの安価で楽しめるこのレストランは、全米の話題になった。

それまでのレストランの潮流といえば、ますます高級化し、豪華な店構えの中で、何百ドルもの料金を出すのが当たり前になっていたが、ミッション・チャイニーズ・フードはゲリラのような方法で、誰もがあこがれていたそんな退屈なレストラン・シーンをひっくり返し、人々の心を奪ったのである。

ミッション・チャイニーズ・フードには、もうひとつの側面がある。それは、売り上げの一部を社会貢献のために寄付していることだ。客が注文するメインディッシュ1皿について75セントを地元のフードバンクに送る。フードバンクとは、余剰食品などを集めて生活困窮者やホームレスの人々に配布する組織のことだ。

ミントは言う。「レストランに来る人々には、ふたつの欲望がある。ひとつは、おいしい物を食べたいという欲望、もうひとつは意味のある体験をしたいという欲望」。そして、社会貢献モデルを盛り込んだミッション・チャイニーズ・フードのあり方は、「食べることと感謝との相乗効果を実現する方法がありうる」ということを証明しているのである。寄付金は、2011〜2012年の2年間でなんと13万ドル(約1300万円)にも上ったという。

ミントは、よくある「スターシェフ」のような派手な振る舞いをしない。そして、ただの資本主義的なやり方からレストランの運営を解放する方法を探し求めているという。農場や地元政府がレストランを運営してもいいし、フードバンク自体がレストランとなって、社会貢献を日々実践できる場所になってもいいと考えている。われわれがこれまで知っているシェフとはまったく異なった職種を、彼は生み出しているのだ。

現在はレストランの激戦区となっているミッションで、ミントはシェフ・コミュニティの中心人物である。現在、ミッション・チャイニーズ・フードを一緒に運営するもうひとりのアジア系シェフ、ダニー・ボーウェンも数々の名誉ある料理賞を受賞している。ミッション・チャイニーズ・フードの料理の創造性には、ますます磨きがかかっている。

そしてミントは、自分の関心が赴くままに活動の舞台を広げている。ミッション・チャイニーズ・フードはニューヨークにも出店し、パリでの開店もうわさされている。数人の若いシェフたちと共に、サンフランシスコに創造的な料理を出す新しいレストランも作った。また、ボーリング場にオープンしたハンバーガー・レストランもある。最近は、腕のあるバリスタと共にカフェもオープンし、そこでおいしいサラダも出している。

ミントは「食を豪華にすることには、興味はない」と言い切っている。しかし、彼の創造性や、レストランや食のあり方についてのアイデアは、豪華であることよりもずっとわれわれを刺激する。長い歴史を持つレストランのあり方にも、まだまだこんな方法もあったかと、大いに励まされるのだ。ミントの冒険はとどまるところを知らない。


 

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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