サンフランシスコのシェフ、アンソニー・ミントの活動を見ていると、「まさにこれこそ、現代という時代の生き方なのではないか」と感じることが多い。
ミントは、現在35歳。数年前にミッション・チャイニーズ・フードという名前のレストランをオープンして有名になった。ただ、「オープン」と言っても、よくあるレストランのような仰々しい開店ではないところがミソだ。
オープンしたのは、すでにそこにある中華レストランの中。その中華レストランは、あるタイプの中華料理店だ。いや、どちらかというとボロいタイプの中華料理店である。ミントは、そこに間借りするようなかたちで、ミッション・チャイニーズ・フードを開店したのである。
これは、今でこそ「ポップアップ」という名前で称されるようになっている方法だが、その当時はそんなコンセプトはなかった。他人の店の中で、一時的な店を開く。自分の店構えもインテリアも持たず、したがって開店のための初期投資もなく、ただ料理の腕だけで仮レストランをオープンするというやり方だ。
ミントという人にとって、その方法は決して例外的な出来事ではなかった。彼の行動はいつも等身大で、自分にとって自然な方法で、自分のやりたいことを実現してきたからだ。
世界一周旅行で目覚めた「才能」
ミントは1978年、バージニア州でビルマ(現ミャンマー)からアメリカに移民した中国系の家庭に生まれた。ごく普通に大学を卒業し、卒業後に就職したのは旅行業界に特化したマーケット・リサーチ会社だった。大学で専攻したのは経済学とアジア研究である。
数年働いた後に退職して、世界一周旅行に出る。そこで6大陸、31カ国を訪問。彼が食の道へと進むのは、この旅行がきっかけとなっている。その間に口にした多様な料理に、彼の感性が目覚めたのだ。
旅行から戻って、ミントは居をサンフランシスコに移し、そこでレストランで見習いシェフとして一から料理を学び始めた。いくつかのレストランを経由して、最後に行き着いたのは、バー・タルティーンという創作的な料理で知られるレストランだった。
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