古民家の使い道は、住居だけではない。松浦さんは古民家をデイサービス施設や英会話教室として再生させるだけでなく、自社でも山口の一等地にある物件を借り、1日1組の料亭に生まれ変わらせて話題を呼んだ。
とんとん拍子、という言葉が頭に浮かぶが、実は起業してからしばらくの間、松浦さんは「どん底」だったと振り返る。起業によって私生活が破綻しかけていたのだ。
もともと結婚したとき、松浦さんが主婦になり、夫の仕事を手伝うということで互いに納得していた。しかし、松浦さんはその生活が肌に合わず、自分の判断で起業した。
ふたりは話し合い、「自分が悪い」と反省した松浦さんは1度、古民家の仕事から離れて専業主婦になったが、結局、両者の溝は埋まらないまま決裂。
詳しくは書かないが、その結果さまざまな負の要因が重なり「本当に超どん底で、明日からどうやって生きていくんやろって……」と思い悩むほど追い詰められたが、ここからが本領発揮だった。
落ちたときだからこそ攻める
古民家の再生事業で知り合い、「おんなたちの古民家」の理事についていた元商社マン、原亜紀夫氏らのアドバイスとサポートを得て、逆転をかけた大勝負に出たのだ。
「最初にやる! と思ったことをやるしかない。仕事に復帰して、もう1回、古民家の再生に懸けようって覚悟を決めたんです。それで、古民家リノベーションのモデルハウスを造ろうということで、銀行から大金を借り入れて、徳佐にある築400年の立派な古民家の大規模改修をしました。屋根と柱だけを残して内装を新築のようにして、露天風呂も作り、宿泊業の許可も取りました」
松浦さんは「落ちたときだからこそ、攻めたんですよ」と笑うが、よほど腹をくくらなければできることではない。
この賭けが吉と出る。
2013年10月、農業体験プログラムも用意された1日1組限定の貸し切り宿「旧山見邸 田楽庵」がオープン。視界一面に田んぼが広がる徳佐にできたこの先進的な古民家宿が、1本60万円の値が付く日本酒「夢雀」誕生のきっかけとなる――。
(後編に続く)
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