「麺屋武蔵」がラーメン界で存在感を放つ理由 その裏側には「現場に任せる」風土があった

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それらをまさに肌で体験した人物が今の麺屋武蔵の指揮を執っている。2013年に創業者である山田雄氏から2代目社長を引き継いだ矢都木二郎氏だ。1996年の「麺屋武蔵」創業時は大学生だった矢都木氏。坂戸にある「丸長」に年間100日は通っていたという大のラーメン好きだったが、麺屋武蔵のイメージだけはほかと違ったという。

矢都木二郎(やとぎ じろう)/埼玉県生まれ。城西大学卒。大学卒業後、いったん一般企業に就職するが、24歳の時に独立開業を目標に麺屋武蔵に転職。以来、麺屋武蔵一筋。3年後、27歳で、上野店店長に昇格。店の運営・経営を任される。2013年11月11日、先代社長からバトンを受け2代目の代表取締役社長に就任する。著書に『麺屋武蔵 ビジネス五輪書』(学研ブラス)

「ラーメン屋だけどまったく新しいものに出会った気分でした。今では当たり前のように使われていますが「麺屋」という名前は、ある意味今までのラーメン屋のあり方を否定している表現だなと思いました」(矢都木氏)。

一般企業に入社するもどうもうまくいかず、学生時代から興味のあったラーメンの世界に足を踏み入れることに。自分を「欲深い」と表現する矢都木氏。「ラーメンは稼げる」という確信があったという。30歳までには独立しようという思いの下、2000年当時、麺屋武蔵の門をたたいた。24歳のころだった。

私もちょうどラーメンの食べ歩きを始めた頃だが、当時の麺屋武蔵の勢いは本当にすごかった。味はさることながら、接客やお店の雰囲気など唯一無二の圧倒的な存在感だったことを覚えている。メディアにもいちばん多く取り上げられていたお店の1つといっても過言ではないだろう。

矢都木氏はその3年後、上野に開店した「麺屋武蔵 武骨」の店長に就任する。濃厚な豚骨に真っ黒なマー油を合わせ、どでかい豚肉が乗ったラーメン。当時は衝撃で、私も本当によく通っていた。お客さんの目の前で大きな豚肉の塊を出刃包丁でぶつ切りにする臨場感。思い出すだけでもお腹が減ってくる。

「『武骨』では本当に自由に好きなことをやらせてもらえました。一社員でありながらここまで自由にやらせていただける環境はほかにはないなと思い、独立の考えはなくなってきましたね」(矢都木氏)

すべてに手を抜かせない

麺屋武蔵はブランド戦略を支える社員教育にも余念がない。大きな特徴は、ラーメンの味づくりの前にサービスやクレンリネスを徹底的に教える点だ。手を抜きたくなる心に打ち勝てる心をたたきこむ。すべてに手を抜かせない。それが良い味につながる。

麺屋武蔵の店舗は海外を除くと東京都内のみ。地方にも進出していく計画はあるのか。「都内から出る予定は今のところありません。門外不出作戦と呼んでいます。情報だけがどんどん伝わっていく時代なので、地方から東京に来たときに食べたいなと思わせる、これもブランド価値だと思っています」。広告もいっさい打たない。すべて取材と口コミで話題が広まっている。

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