そこで不安定な要素を創らんといかん、ということになるんや。「安定してるけど安定させない」。それが大企業病を克服するひとつの方法であるわけやな。これに成功するかどうかということ。
不安定なところにあるがゆえに
以前、ある人から聞いた話やけど、ロボットな、あれはいま日本で盛んに造られ、使われておるけどな、あれ、人間そっくりなものはまったくないやろ。人間の上の部分というか、手と胸の部分を備えたロボットと、下の部分の、まあ、足やな、そのロボットの、ふたつに分かれて、ひとつの、人間のような形をしたロボットは、きみ、見たことがないやろ。それはどうしてかというと、そういうロボットはいまのところ出来んそうや。むろん、将来はわからんけどね、たとえ、人間の形のロボットでも、飛んだり跳ねたりはできんそうや。
それは重心にあるらしい。人間の重心はお腹(なか)にある。ところがそれは力学的にいうと、不安定だというんや。それはそうやな。重心が真ん中にあるんやから、不安定といえば不安定やわな。一番の安定は足やわな。足に重心があれば、これは転ばんわな。だから絶対に安定させようとするならば、重心は足にもってこんといかんということになる。
ところがそうすると、体全体の自由がきかなくなるそうや。走ることもできん。跳ぶこともできん。そりゃそうやな、足に重心があるんやから、重たくてそんなことはできんわな。不自由というわけや。ところが人間の重心はお腹になる。不安定なところにある。その不安定なところにあるがゆえに、今度は跳ぶことも出来るし、走ることもできる。まあ、自由に振る舞うことができるというわけや。これやな。適度の不安定さのなかにこそ自由があるということや。
自由というものは、完全な安定の中には存在しない。ということは、どういうことかというと、あんまり安定してしまったら、自由が失われる、活発には動けんということやな。
ところが、企業の努力目標は大きくなろう、発展しよう、それは少々のことがあっても会社が揺るがない、微動だにしない、絶対的な安定を求めてのことであるわけやな。すなわち、限りなく絶対的安定への努力ということになる。
しかし、そのことはいままで言うてきたように、奇妙なことやけど、「不自由になろう、会社の活動を活発にしないようにしよう」ということになるわけや。いや、別にそういうことを望んでおるということではないで。むしろ、そうならんように願い、心掛けるんやけど、結果として知らず知らず、そういうことになってしまうんや。
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