松下幸之助「大企業病を防ぐことはできる」 経営の神様が語った成功の奥義

✎ 1〜 ✎ 24 ✎ 25 ✎ 26 ✎ 最新
拡大
縮小

そこで不安定な要素を創らんといかん、ということになるんや。「安定してるけど安定させない」。それが大企業病を克服するひとつの方法であるわけやな。これに成功するかどうかということ。

不安定なところにあるがゆえに

以前、ある人から聞いた話やけど、ロボットな、あれはいま日本で盛んに造られ、使われておるけどな、あれ、人間そっくりなものはまったくないやろ。人間の上の部分というか、手と胸の部分を備えたロボットと、下の部分の、まあ、足やな、そのロボットの、ふたつに分かれて、ひとつの、人間のような形をしたロボットは、きみ、見たことがないやろ。それはどうしてかというと、そういうロボットはいまのところ出来んそうや。むろん、将来はわからんけどね、たとえ、人間の形のロボットでも、飛んだり跳ねたりはできんそうや。

それは重心にあるらしい。人間の重心はお腹(なか)にある。ところがそれは力学的にいうと、不安定だというんや。それはそうやな。重心が真ん中にあるんやから、不安定といえば不安定やわな。一番の安定は足やわな。足に重心があれば、これは転ばんわな。だから絶対に安定させようとするならば、重心は足にもってこんといかんということになる。

ところがそうすると、体全体の自由がきかなくなるそうや。走ることもできん。跳ぶこともできん。そりゃそうやな、足に重心があるんやから、重たくてそんなことはできんわな。不自由というわけや。ところが人間の重心はお腹になる。不安定なところにある。その不安定なところにあるがゆえに、今度は跳ぶことも出来るし、走ることもできる。まあ、自由に振る舞うことができるというわけや。これやな。適度の不安定さのなかにこそ自由があるということや。

自由というものは、完全な安定の中には存在しない。ということは、どういうことかというと、あんまり安定してしまったら、自由が失われる、活発には動けんということやな。

ところが、企業の努力目標は大きくなろう、発展しよう、それは少々のことがあっても会社が揺るがない、微動だにしない、絶対的な安定を求めてのことであるわけやな。すなわち、限りなく絶対的安定への努力ということになる。

しかし、そのことはいままで言うてきたように、奇妙なことやけど、「不自由になろう、会社の活動を活発にしないようにしよう」ということになるわけや。いや、別にそういうことを望んでおるということではないで。むしろ、そうならんように願い、心掛けるんやけど、結果として知らず知らず、そういうことになってしまうんや。

次ページ大企業が心掛けなくてはならないこと
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT