つねに一商人の心を忘れず
この季節になると、池のコイもよう泳ぎまわるようになったな。ついこないだまでは、水が冷たかったせいもあるんやろうけど、冬の間はあまり動かんな。ようけ泳いでおるけど。うん? なん匹おるのか、わしは勘定したことないから知らんで。100匹ぐらいはおるんかいな。
たいていが、もらったものやけど、あまりたいしたもんはおらんようやな。それでも、ああしてコイが泳いでおる景色は、それなりにええもんや。
そういえば、あの池に1度、舟を浮かべようということで、舟、作ってもらったことあったなあ。あれ、どうしたかなあ? 最初作ったけど、少し長過ぎるというか、大き過ぎてな、これぐらいの大きさの池に合わんわけや。それで少し後ろを短くしてもらおうと。あれ、切ってもらったわな。それで浮かべたら、きみ、こんどはまるでお椀や。
まあ、とにかく乗ってみようかと。乗ってみたけど、わしは、舟をこいだこともないし、おまけに、そんな形になってしもうたから、櫓(ろ)でどないやっても、同じところをグルグル回るだけや。舟もかっこ悪いし、わしもかっこ悪い。みんな、大笑いやったな。きみも見とったやろ。
その舟、えっ? 物置にしまってある? どうもならんなあ。
まあ、それはともかく、昔、「会社が、いかに大をなすとも、つねに一商人の心を忘れず」というようなことを、言ったことがあるけど、実際に、こういうことは大事やね。
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