松下幸之助「一商人の心を失ってはならない」 経営の神様が問わず語りに語った経営の奥義

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商売を始めたころは、もう必死やからな。いっとう最初の製品が売れたときの感激は、言うに言えんほどのもんや。売れるか売れんかわからん。どやろうか。買うてくれる人がいるやろうか。胸も高鳴るわね。わしもそうやったけど、まあ、商売を始めた人は誰でも同じ気持ちやろう。

そういうときに、うん、買うてあげようということで、お客さんがおいでになる。ああ、ありがたいと。その商品を手渡しするのも、また代金を受け取るのも、手が震えるほどや。店を出ていかれるそのお客さんの後ろ姿に、思わず手を合わす。ほんま、ありがとうございましたと、お客さんの姿が見えなくなっても頭を繰り返し下げる。それが商売の原点やな。商人としてのほんとうの姿、心というものやね。

そして、しっかりと、誠実に、正しく商売をしていこうと心に誓う。

商人としてのほんとうの心というものを忘れてくると…

けどな、そういうことで会社や店もだんだんとうまくいく。発展する。あしたはどうなるかと、一日一日心配もし、案じていたものが、やがて大きなお店になる、大きな会社になってくると、次第にそういう最初の感激、商人としてのほんとうの心というものを忘れてくる。そうなってくると、お客さんが自分のところの商品を買うてくれるのは、当たり前というような、まあ、こういう気持ちをはっきりもつということはあまりないやろうけど、無意識のうちにそういう態度になるんやね。

大きなお店になって、あるいは大きな会社になって、多少なりとも大勢の方々が自分たちのお店を、会社を評価してくださるようになると、そういうことになる。これはあかんね。いつもいつも最初の商品が売れたときの、お客さんの後ろ姿に手を合わせた、そのときの気持ち、感激、心やな、そういうものを忘れたらあかん。

「初心忘れず」という言葉があるけどな。ところがそういうことが、なかなかできんのやな。

会社やお店が大きくなると、経営者も社員もだんだんと態度が横柄になる、傲慢になる。経営者も、誠実な心をなくしていく。経営の仕方も大ざっぱになる。経理にも無関心になってくる。お客さんのこととか、お得意さんのことなど、頭の隅にもない。そうなると、経営者が経営者なら、社員も社員や。

お客さんが、問い合わせしても、連絡しても、あるいは依頼をしても、なかなか返事がこない。回答もこない。結論も言うてこない。で、「まだですか」と。すると、「それは課長のところで、いま検討しています」と言う。それで、「お願いして、もう1カ月も経っておるのに、最終的に結論が出るのは、いつごろになるのでしょうか」と尋ねると、「さあ、あと3カ月はかかるだろう」と言う。「そんなんでは困ります」と言うと、「なにを文句を言うのか」とか、「それなら、うちはあんたのところのような小さなところと付き合う必要もないから、お付き合いはやめましょうか」と言う。

こういう傾向が、会社や店が大きくなると出てくるんやな。これをなんとかせんと、もう会社も店も、いきいきとした活動ができにくくなる。
そのためには、どうするか。まあ、お茶、飲んでから、話しよ。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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