松下幸之助という人と長年接していると、この人がはたしてわずか50年ほどの間に、ゼロから出発して世界的大企業をつくった人物なのだろうかと思う瞬間を、ときおり感じることがあった。
特別に他人を圧倒するような腕力があるのでもない。とりわけ群を抜いて豊富な知識を持ち合わせているようにも見えない。
テレビで高校野球を見ている、相撲を見ている、その横顔を見つめながら、この人にはほかを威圧するなにものも持ち合わせていないというように思えた。そればかりではない。ときにあまり自信のない表情が、その顔をよぎることがあった。
恐る恐る経営に取り組んでいた
松下は、経営にたずさわっていた間、ずっと恐る恐る経営に取り組んでいた、と言うこともできるのではないか。
いや、人生そのものが恐る恐るだったと言うこともできるのかもしれない。しかしそれならば、この圧倒的な存在感はなんであろうか。なによりもその実績は、とてつもなく大きい。
あるとき、松下は次のように答えたことがある。
「うん? わしが成功した理由か? そやなあ、ようわからんな。きみが聞くように時折、どうしてあんたはこんなに会社を大きくしたのか教えてくれ、どんな方法があるのか教えてくれ、というようなことを聞かれるときがあってな。けど、そんなことは聞かれても、あれへんわけや。けどな、強いて言えば、わしが凡人やったからやろうな。人と比べて誇れるようなものはない。それがよかったと思う」
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