松下幸之助は納得するまで何度もやり直した 著作の校正に半年間も掛ける執念

✎ 1〜 ✎ 18 ✎ 19 ✎ 20 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
自分の本にこだわりを持っていた松下幸之助は、校正にも時間を掛けていた

人間を考える』という本をつくったときのことである。

この本は、松下幸之助にとって、とりわけ重要な本であった。原稿は吟味に吟味を重ねた。検討を始めて数回のところで、その手書き原稿は印刷会社にまわされた。校正を行うためのゲラ刷りとして、活字に組んでもらうためである。

そのゲラ刷りによる内容の検討が、半年間、ほとんど毎日のように行われた。150~160ページのゲラを最初から最後まで、1日かけて読み続け、細部の修正を重ねる。訂正が書きこまれたゲラ刷りは、印刷会社にまわしてきれいに印刷をしなおしてもらう。1カ所に数時間、あるいは1日かけて検討するということもあるから、毎日印刷をしなおすというわけではないが、それでも数日に一度となる。

何度も何度もゲラ修正を行った

初めのうちは印刷会社の担当者も機嫌がよかった。松下の書いた本はこれまで何冊もベストセラーになっていたからだ。しかし、修正が15回を越えると私に文句を言いだした。

「江口さん、たいがいにしてください。いままでのうちのゲラ修正の記録は、大学の先生が12回か13回されたのが最高なんです。普通はせいぜい2回ですよ。そんなに何回も出されたら困ります」

「それはそうだろうと思うけれど、そこをなんとか……」

ということでなだめすかしながらの修正が、20回を越えると、印刷会社の担当者もあきらめたのか理解してくれたのか、「何回でもゲラ修正をしますから、どんどん出していただいてけっこうです」というように変わってきた。

半年のあいだ、通し読みを繰り返し、また部分読みもずいぶんとした。そのつど印刷会社には迷惑をかけたわけであるが、松下の人間観の検討は執拗を極めた。どんなに小さな言葉、どんなに小さな気になる文言も、見逃しはしなかった。

次ページ本の作り方は「異常」だった
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事