「顔を上げて」「手はポケットから出して」「『あー』は言わない」。ニューヨークのエリートプライベートスクール、スパイヤーレガシースクールのディベートクラスでは教師のラドリー・グラッセー氏が檀上の生徒に矢継ぎ早に、指示を飛ばしていた。
生徒がひとりずつ国の代表に扮する模擬国連のクラス。この日は、気候変動をテーマに〝各国代表″が激しく舌戦を繰り広げていた。「議定書の決定に従わない国には制裁措置をとるべきだ」「いや、逆に順守した国にインセンティブを与えるべきでは」など、それぞれが理路整然と自らの〝国″の主張を展開する。それに対し、グラッセー氏は、機関銃のような語り口で論点を整理しながら、「なぜ、そう言えるのか」「なぜ、その必要があるのか」など質問を畳みかけていく。とにかく早口だ。
論理的思考はロジカルな「話し方」から
グラッセー氏は大学でディベートチームに入り、その魅力に取りつかれた。役者向けのボイストレーニングや古代ギリシャのレトリック術等、さまざまな「話すコミュニケーション」のスキルを徹底的に学んだ。卒業後、タウン誌の記者を経て、世界の学校にディベート教育を普及させる活動を行なうNPOに参加、そこから同スクールにスカウトされた。
この道に入ったのは、「日常生活の9割を占めるだろう『話すこと』の教育が、読み書きの時間より少ないのはおかしい」という思いだった。「ロジカルに話すことを学べば、自然と論理的な思考と読み書きができるようになる。『話し方の教育』は、まさに言語教育の基本」と説く。一方、日本人は論理的に読み書きができるようになって初めてロジカルに話ができる、と考える人が多い。つまり「読み書き」→「話す」のプライオリティだ。特にスピーチやプレゼンなどでは、時間をかけて原稿やパワーポイントを書き上げるが、結局、それを「話す」こともできず、「読む」ことで終わってしまう。
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