人気工具「ネジザウルス」はアメリカを目指す 累計300万本売れたヒット工具の野望

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お客様から寄せられた意見のうちで多かったのは、グリップを握りやすくとか、ばねを付けて、といった要望でした。これらは少しおカネがかかりますが、比較的簡単に改良できます。問題は、少数意見だった「トラスネジを外せるようにしてほしい」でした。

トラスネジというのは、ネジ頭が低いネジのことで、目立たないことからデザイン性が重視される部位に使用されます。これは難問でした。社員の皆も、考えたこともない問題で頭を抱えました。その意見は1000通中わずか7通。本当にそういうニーズがあるのか、無視してもいいのでは、とも思ったそうです。

そしたらある日、社員の1人が、ネジをつかむ先端部分を凹型から凸型に変えたらどうか、という工夫を考えつきます。まさにコロンブスの卵。実際に試作品を作ってトラスネジを外してみると効果は抜群でした。こうして、新商品「ネジザウルスGT」が完成します。

トラスネジを外せる新商品「ネジザウルスGT」(写真:エンジニア提供)

完成品を持って、営業マンが機械工具商社やホームセンターの担当者を訪ねます。デモ用のトラスネジを使った実演を行うと「これはええわ、間違いなく売れるで」と上々の反応でした。少し前までは、ネジザウルスはもう飽きた、と言っていたのに、意外な展開です。そして現場の協力もあり、ネジザウルスGTは発売以来7カ月で7万本以上のヒットになったのです。

お客様の声に盲従するのも危険

高崎社長はそのときのことを、反省を込めて次のように話します。

「アンケートの上位にあったご意見は、多くのお客様が望んでいる時点で、すでにニーズではないのではないでしょうか。メーカーがその要望を実現するのは当然で、減点対象であっても加点されることはなく、驚きもありません。それよりもほとんどのお客様が気づいていないという意味で、少数意見には驚きがあります。潜在しているからこそニーズなのです」 

お客様の声にいっさい耳を傾けないのは論外ですが、その声に盲従するのも危険です。少数意見に注目し、作り手側のこだわりをおろそかにしないのも、大事なマーケティング (M) なのです。

なお、この「ネジザウルGT」を含めたネジザウルスシリーズは、国内外で31件の知的財産権(P=パテント)を取得。作業工具の分野でこれほどの知的財産権を持っているのは、おそらくネジザウルスだけだそうです。海外への進出も視野に入れた周到な対応だと思います。

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