人気工具「ネジザウルス」はアメリカを目指す

累計300万本売れたヒット工具の野望

その高崎社長にお会いしたとき、なんと「先にやられて悔しい」と嘆いていました。話を聞くと、ユーチューブで一躍世界的人気になった「PPAP」のことでした。これから「MPDP」で世界に打って出ようというとき、ピコ太郎さんに先を越されたというのです。

確かにちょっと似ています。自らの「ヒットの法則」と世界的人気のフレーズを比べるあたり、いかにも高崎社長らしいユーモアです。

逆転の発想で生まれたネジザウルスの卵

高崎社長は2代目ですが、東大工学部を卒業して最初に入った会社は三井造船でした。充実した会社生活を送っていましたが、ある日、60代半ばになった父親から「自分も老齢になったので、会社を継いでくれないか」という手紙が届きます。特に「自分の年齢と会社の将来を考えると眠れないほど悩む夜がある」という一文には心を動かされました。

ネジザウルスを片手に(写真:エンジニア提供)

悩み抜いた末、10年間勤めた三井造船を退社し、家業を継ぐ道を選びます。それは肉親の情にほだされただけでなく、やはり経営者という立場に魅力を感じたから、とのこと。1回きりの人生、自分の能力が業績という形ではっきり表れる社長という立場に挑戦しよう、と考えました。

入社は1987年、32歳のとき。社員たちは幼児期からの顔なじみもいて、おおむね好意的でしたが、取引先の反応は率直でした。あいさつ回りに伺うと、「あんた東大出てるそうやけど、この業界では通用しまへんで」と言われました。学歴を鼻にかける気持ちはありませんでしたが、無用の反発を招かぬよう言動には細心の注意を払ったそうです。

会社は、1948年の創業以来プロ用工具を専門に扱い、約1000アイテムの商品を機械工具専門商社に卸していました。高崎さんは入社以来、少しでも売り上げを伸ばそうと20年間で800アイテムもの新商品を開発します。しかし、なかなか売り上げに結び付きません。

そんな中、ガスクッションプライヤーという工具に別の用途があることを思いつきます。プライヤーというのは、先端部分を開閉して物をつかんだり切断する工具の総称で、ペンチやニッパーもその一種です。その中でガスクッションプライヤーは、ガス管などの円形パイプをつかむ特殊工具ですが、他のプライヤーとは少し変わっています。普通のプライヤーは、つかんだ物を手前に引っ張るため先端部分にヨコ溝が彫られていますが、このガスクッションプライヤーにはタテ溝が刻まれているのです。つかんだパイプが左右に回らないよう固定するためです。

「これ、頭の溝がつぶれて外しにくいネジを外せるんちゃうか」。高崎社長の頭にそんな考えがひらめきました。普通のねじ回しでは外せない、溝が潰れたり、さびてしまったネジを、タテ溝の工具でしっかりつかんで回せば、外すことができるのではないか。ネジを閉めずに緩める逆転発想の画期的商品だ、と期待を込めて市場に出しました。これがネジザウルスの前身です。「小ネジプライヤー」と名付けました。

しかし、このネジザウルスの卵ともいうべき商品、期待に反して売り上げが伸びません。2000年に売り出しましたが、1年間で800本足らずの実績でした。絶対売れると意気込んだ割には、結果は満足できるものではありませんでした。

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