(第14回)阿久悠の履歴書5--上村一夫とビートルズとの出逢い
高澤秀次
●久悠の盟友・上村一夫
作曲家では『津軽海峡・冬景色』の三木たかし、ピンク・レディーのヒット曲を手掛けた都倉俊一、『青春時代』の森田公一、沢田研二の楽曲を担当した大野克彦--彼らが作詞家・阿久悠の代表的なパートナーだった。だが、阿久悠の盟友の名に値するのは、上村一夫以外にはいない。
武蔵野美術大学デザイン科に在学中、イラストレーターとして宣弘社の広告制作のアルバイトをこなし、阿久悠と知り合った上村は、昭和15年(1940)生まれ、阿久悠より3歳年下である。
『無名時代』という作詞家の自伝的小説に、上村は上川一人の名で登場する。
「あとがき」で作者は、それが70年代の劇画ブームの一翼を担った上村一夫その人であり、主人公(芥洋介)とのからみの部分が、ほとんど事実であると語っている。
だが、二人が宣弘社を離れ、クリエーターとして"協同作業"を開始するのは、この小説の後日談の部分に属している。
「ぼくがシナリオを書き、上村一夫が絵を描き、最初の作品は平凡パンチに連載した『パラダ』という実にアナーキーな時代劇であるが、その時はまだ劇画という言葉はなく、MANGA NOVELと書いてあった。(中略)二人で書いた劇画は、『パラダ』から始まって、『サクセス48』『スキャンドール』、『男と女の部屋』『俺とお前の春歌考』『ジョンとヨーコ』『花心中』(映画化)『悪魔のようなあいつ』(テレビ化)と大体こういうもので、他に短篇はまだいくつかあるかもしれない。(中略)全くの余談だが、沢田研二の『時の過ぎゆくままに』は、『悪魔のようなあいつ』のテーマ曲である」(同)
上村が一本立ちするきっかけは、原稿料が高くつくという理由で、阿久悠とのコンビを否応なく解消されたことだった。
それから一念発起、彼はオリジナルストーリーで代表作『同棲時代』を書くのだ。
阿久悠作詞のレコード大賞受賞曲、『また逢う日まで』(歌・尾崎紀世彦)は、奇しくも『同棲時代』の連載開始と重なる1971年の作品。しかもそれは、「同棲」カップルの対等な別れをテーマにした曲だったのだ。
これは単なる偶然ではない。
離ればなれになった阿久悠と上村一夫の、時代を読む眼が、奇跡のような共鳴現象を起こした結果だったのである。
それまでに、若き二人の青春のエネルギーの蕩尽(とうじん)、「無名の同志のただならぬ愚行、ただならぬ無駄」(同)があって、はじめてこうした主題的な"遭遇"が実現したのだ。
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