駅伝ではないが、今夏に開催されたリオ五輪でテレビ視聴率が最も高かったのは男子マラソンで23.7%、2位は開会式の23.6%、3位は女子マラソンの22.6%だった。テレビ視聴率でいうと箱根駅伝を超えるレースは存在しない。視聴率で箱根駅伝を上回るステージがあるとすれば、オリンピックの舞台で日本人ランナーがメダル争いを繰り広げるしかないだろう。
箱根人気が選手たちを勘違いさせる?
箱根駅伝は「大学経営」とも無関係ではない。志願者数(2016年)の多い私立大学でトップ20(旺文社調べ)に入っている明治大、早稲田大、日本大、法政大、東洋大、中央大、青山学院大、東海大、駒澤大は箱根駅伝でも活躍。山梨学院大、中央学院大のように箱根駅伝でネームバリューをUPさせた大学もある。箱根駅伝に出場したからといって受験者数が急増するということはあまりないというが、少子化の時代に箱根駅伝という舞台は大学名を知ってもらう絶好のチャンスだ。加えて、イメージ戦略の部分でもメリットは大きい。
そのため箱根を目指して駅伝強化をはじめる大学は年々増えている。現在は40~50校が本格的に強化しており、全国から関東地区の大学に有望選手が続々と集まっている。必然的にスカウティング合戦が過熱。ランナーたちを取り巻く環境は、筆者が高校時代だった20数年前と大きく様変わりした。
本格強化している大学は早稲田大を除き、長距離選手だけで1学年10人程度の「スポーツ推薦枠」を確保しており、加えて大半の大学には授業料免除の「特待生」もいる。なかには寮費などを無料にして、奨学金(生活費)まで支給している大学もあり、月に20~30万円もの奨学金を得ている選手もいるという。こうなってくると大学をスポンサーにした“プロランナー”に近い。
ここまで優遇されているのは陸上競技で男子長距離だけ。ほかの種目は、スポーツ推薦枠はあっても授業料免除はほとんどないのが現状だ。
そして箱根駅伝で大活躍すれば、国民的なスターになれる。たとえば「山の神」という“箱根ワード”はスポーツに疎い人にも一定の認知度があるのではないだろうか。近年は青学の大躍進にメディアが注目するなど、箱根ランナーたちはちょっとしたアイドルになっている。
周囲がチヤホヤすることもあり、自分の“存在価値”を勘違いしてしまう箱根ランナーもいる。大学を卒業して、実業団に進むときも、箱根で活躍した選手のスカウティングは大激戦だ。そのため、「選手がチームを選ぶ」という力が大きくなり、入社後も「監督<選手」という構図のチームもあるほど。監督が思い切った指導ができないという実業団チームが増えている。
しかし、ランナーたちは自分の“経済的価値”をしっかりと把握すべきだろう。テレビ視聴率30%に近いレースでヒーローになれる選手の価値はすこぶる高いが、大学を卒業すると、そんな機会は巡ってこない。ニューイヤー駅伝の注目度は箱根ほど高くはない。ランナーとして箱根駅伝以上の価値を見出すとしたら、オリンピックのマラソンでメダル争いできる選手にならなければいけないのだ。
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