箱根駅伝、人気化の裏でささやかれる「弱点」 「箱根後」に待ち受ける厳しい世界

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世界と本気で勝負していくには、高い志が必要になるが、同時に箱根駅伝は世界を目指すランナーたちだけのものではない。箱根駅伝が競技者としての“最終ゴール”という選手も当然ながらいる。

以前、東大出身の元プロ野球選手だった小林至(現・江戸川大教授)を取材する機会があり、コロンビア大学経営大学院でMBA(経営学修士号)を取得している小林のこんな言葉にドキッとさせられた。

「スポーツを強化するということは、勝利を得るということ。勝利を得ることによって利益を得る。そして利益を得ることで強化や普及につなげていくことができる。そうすることで競技全体のパイが広がっていくわけです。それを繰り返すことで、利益が膨らんでいく。マラソンや駅伝はどうなんでしょうか?」

「箱根の先」が見つけられるか

本コラムの筆者、酒井政人の著書『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』。(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

オリンピックでメダルを獲得するような日本人ランナーが現れれば、日本のランニング業界はさらに潤う可能性はある。ただ、箱根駅伝は毎年のようにヒーローが誕生。大学やメーカーにとっては大きなPRの場となっている。中高生があこがれるのも、世界大会に出場する選手より、テレビで観た箱根ランナーという場合が多い。オリンピック選手をひとりも育てていない青山学院大・原晋監督は名監督としてメディアや講演に引っ張りだこだ。そう考えると「箱根駅伝」というイベントはビジネス的に大成功しているといえるだろう。

今年2月の東京マラソンを最後に、青山学院大で活躍した出岐雄大(中国電力)が25歳の若さで現役を引退した。出岐は3年時に箱根駅伝2区で区間賞を獲得して、びわ湖毎日マラソンでは学生歴代3位の2時間10分02秒をマーク。いま大躍進中の青学から、最初に飛び出したランナーだった。「箱根駅伝以上の目標を見つけられなかった」という引退理由は寂しいが、現在の箱根駅伝をよく表していると思う。

箱根駅伝は、マラソンの父として知られる金栗四三らの「世界に通用するランナーを育成したい」という思いで始まった大会だ。学生ランナーたちは本気で世界を目指すべきなのか。それともガラパゴス化を極めるのか。箱根駅伝の向かう未来がキラキラに輝くものであることを祈りたい。

酒井 政人 スポーツライター

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さかい まさと / Masato Sakai

東農大1年時に箱根駅伝10区出場。現在はスポーツライターとして陸上競技・ランニングを中心に執筆中。有限責任事業組合ゴールデンシューズの代表、ランニングクラブ〈Love Run Girls〉のGMも務めている。著書に『箱根駅伝 襷をつなぐドラマ』 (oneテーマ21) がある。

 

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