では、箱根ランナーの「実力」はどうなのか。日本選手権の男子5000mと同1万mに出場した大学生は、一色恭志(青山学院大)、服部弾馬(東洋大)、中谷圭佑(駒澤大)の3人だけで、最高順位は5000mに出場した一色の4位だった。今大会はリオ五輪のトライアルを兼ねていたが、一色の5000mベストは日本選手権でマークした13分39秒65。リオ五輪参加標準記録は13分25秒00で、タイム的には小さくない開きがあった。
その一色は今回の箱根駅伝で最大の目玉選手となるが、長距離種目でなければ、一色レベルの大学生アスリートがこれだけ注目を集めることはない。箱根駅伝の不思議なことは、出場選手のレベルに関係なく、盛り上がってしまうことだ。
世界との差は確実に広がっている
とはいえ、箱根駅伝の人気もあり、関東の大学に有力選手が集まるようになったのは事実。そして箱根駅伝の全体的なレベルは上昇。20数年前は数えるほどしかいなかった学生の1万m28分台は、今季だけでも50名以上がマークしている。ただし、学生トップのレベルはほとんど変わっていない。
1978年に瀬古利彦(早稲田大/現・DeNAランニングクラブ総監督)が27分51秒61の学生記録を樹立すると、そのタイムを超えるのに17年もの年月がかかった。1995年に渡辺康幸(早稲田大/現・住友電工監督)が27分48秒55に更新。現在の1万m日本人学生最高記録は、 2013年に大迫傑(早稲田大/現・Nike ORPJT)がマークした27分38秒31になる。
当時の世界記録と比較すると、瀬古は29秒差(27分22秒47/ヘンリー・ロノ)。渡辺は1分05秒(26分43秒53/ハイレ・ゲブレシラシェ)という大差をつけられているが、同年の世界選手権1万mで決勝に進出して、12位に食い込んでいる。大迫は1分21秒差(26分17秒53/ケネニサ・ベケ)で、現役日本人学生最高(28分17秒56)の中谷圭佑(駒澤大)は2分00秒という大きな開きがあるのだ。残念なことに、箱根駅伝の熱狂とは裏腹に、世界との差はじわじわと広がっている。
日本の男子マラソン界の低迷の理由として、箱根駅伝のレベルが高くないことが非難されることがあるが、確かに学生トップのレベルが上がってないことは問題のひとつかもしれない。リオ五輪の男子マラソンは箱根OBが3名を占めるも、27km過ぎまでに全員がトップ集団から脱落。佐々木悟(旭化成)が16位、石川末廣(Honda)が36位、北島寿典(安川電機)が94位という無残な結果に沈んだ。しかも全員が30歳オーバーで、2020年東京五輪で活躍が期待できる“新たなるヒーロー”の育成が急務になっている。
2020年に東京五輪が開催されることで、選手たちの意識は確実に「世界」を向いている。しかし、世界との差を客観的にとらえている選手、指導者は少ない。それはメディアも同じで、現実を直視しない希望的観測がほとんどではないだろうか。1万mを27分台ですら走れない選手が3年半後に、マラソンで2時間2~3分台のタイムを持つ選手たちと「メダル争い」ができるだろうか。
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