「同一労働同一賃金」は、一体何を変えるのか 「正社員だから高賃金」は通用しなくなる

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ガイドラインでは、基本給について、労働者の職業経験・能力に応じて支給しようとする場合、正社員と同一の職業経験や能力を蓄積している非正規社員にも、「職業経験・能力に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない」と明記されている。また、悪しき具体例として、正社員が非正規社員に比べて多くの職業経験を有することを理由として、多額の支給をしている場合に「これまでの職業経験が現在の業務に関連性を持たない場合」があげられていることにも注目だ。単に年齢を重ねればよいというわけではないことが明確にされているのである。

また、賞与(ボーナス)についても、「正社員に職務内容や貢献などにかかわらず全員に支給しているが、非正規社員に支給していない場合」を悪い例として示している。もし文字通りにとらえるなら、多数の非正規労働者を抱える会社にとっては、インパクトが相当大きい。

安倍首相も以前から「我が国から『非正規』という言葉を一掃することを目指す」と述べていたが、こうした具体例にまで踏み込んだということは、政府としても正規・非正規間の不合理な待遇差の解消に本気であることがうかがえる。非正規社員の待遇改善に伴い、正社員の賃金水準への引き下げ圧力がかかることは必至だ。年功賃金の慣習も崩れ、これまで正社員としての立場の恩恵を受けていた人は、厳しい状況になる場合も増えてくるだろう。

会社側に処遇差の説明責任が生じる?

また、企業にとっては法的なリスクも顕在化してくる。2016年2月23日の「一億総活躍国民会議」で、参考人として招聘された水町勇一郎東大教授(労働法)は、同一労働同一賃金原則とは異なる賃金制度などをとる場合には、その理由や考え方を「会社側に説明させることによって、賃金制度の納得性・透明性を高める」ことを提案している。つまり、今後の法改正では、労働者から「不当な扱いがあった」と主張された場合、そうでないことを証明する立証責任が会社にあるとする方向を目指す可能性が高い。

このリスクを事前に回避するためには、会社は社員間の待遇差の状況を正確に認識し、法的見地からみて問題があれば、迅速に是正することを迫られるだろう。倉重弁護士は、「今回のガイドラインは法改正ではなく、現在、存在する法律の解釈論に影響を与えるもの。最近の裁判官は行政のいうこと鵜呑みにする傾向があるため、極端な話、明日から適用されかねないことは大きなリスク」と指摘する。

待遇差が生じる「合理的な理由」の説明を会社が容易にするためには、職務を明確に分けていくことが重要になると思われる。しかし、特定の業種や多くの中小企業では、あらゆる業務が混然一体となって進められていることも多いため、職務分離がスムーズに運用できるかといえば難しいだろう。非正規労働者に対する扱いについて、企業の労務リスクに不確実な要素が増えたということは間違いない。

少なくとも、「正社員だから」という理由だけで賃金が高いという理屈が通じない時代となることは明らか。企業としては、「なぜ給料が高いのか」を個別に説明できるようにすることが、肝要になってくるといえる。これまで形を一部崩しながらも、その原型をとどめていた「横並び」の年功序列賃金体系は、いよいよ本格的に縮小する方向に進みそうだ。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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