トランプが「オバマケア」を撤廃できないワケ 財政調整はできるが、実はそれも困難

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ちなみに、トランプ次期大統領の政権移行チームが作成した新ウェブサイト(greatagain.gov)には、12日時点でこの7つの政策は掲載されていない。医療制度改革については、あまり具体性が無いあいまいなものに差し替えられているのだ。

こうなると、そもそもトランプ氏がこれら7つの政策を実行するつもりがあったのかどうかも怪しい。これまでもコロコロと考えを変えてきたトランプ氏のことなので、「選挙で勝つための政策」と「大統領として実現しようとする政策」はかなり違う可能性がある。

実はオバマケアの全面的な撤廃はできない

そうした中で11日に維持検討を表明した2つの条項は、トランプ氏が大統領になっても簡単には変えられない部分だ。ここでカギとなるのは上院の議席数。今回の選挙によって上院100議席のうち48議席が民主党、51議席が共和党になった(ルイジアナ州の1議席は12月10日に再選挙)。トランプ氏が民主党の協力を得ずにオバマケアを廃止するには6割に相当する60議席必要だが、そんな結果にはなっていない。

共和党が60議席確保していれば、強行採決によって民主党の賛成票が1票もなくても法案を通せる。しかし、現状の議席数ではそれはできない。民主党は議事妨害によって時間切れに持ち込み、共和党が出す法案を廃案にできる。

では民主党を切り崩せるのか。オバマケアには、成立の際、民主党議員は1票も落とせない状況だったところを、まさに一枚岩になって法案を通した歴史がある。そのため、民主党議員がトランプ氏に賛成票を投じる可能性はゼロに近い。よって、トランプ氏がたとえオバマケア撤廃の法案を提出しても、その法案が上院で可決されることはないのだ。

しかし、トランプ氏は「財政調整(Budget reconciliation process)」という手続きを使うことで、オバマケアに変更を加えることはできる。財政調整とは、既存の法律の歳出と歳入に関わる部分だけに変更を加える方法であり、これは過半数の賛成で可決される。つまり、51議席を持つ共和党としては可決に持ち込めるわけだ。

2015年にはこの財政調整によって議会がオバマケアに大きな変更を加えようとした。上下院ともに通過したが、オバマ大統領が拒否権を発動したため実現しなかった経緯がある。大幅な変更を加えることに関する政治的な「予行演習」はすでに済んでいるといえるだろう。

では、財政調整でオバマケアはどのような影響を受けるのだろうか。上記の2015年の例では、保険料に対する政府の補助金、個人加入義務化、雇用者の従業員への保険提供義務(Employer mandate)など、オバマケアのうちおカネに関わる部分の多くが含まれていた。これらに関しては、トランプ氏は財政調整を用いることで大幅な変更を加えることが可能だ。

一方、おカネに関わらない部分は変更できない。オバマケアのうち、「既往症による保険加入の拒否禁止」などの条項は影響を受けない。つまり、トランプ氏は「これらの措置の維持を検討している」と言うものの、そもそもこれらの措置は民主党議員の賛成票なしに廃止できないものなのである。

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