話を整理すると、トランプ氏はオバマケアを全面撤廃できない。しかし、財政調整を利用することで大幅な変更を加えることはできる。もしこのようにトランプ氏がいびつな形でオバマケアを改変した場合、何が起きるだろうか。
まず、現場では大混乱が起きる。オバマケアによって設立されたものの一つに、政府によって規制された保険市場である「エクスチェンジ」がある。雇用者から福利厚生として健康保険を提供されていない人は、このエクスチェンジで保険に加入できるようになった。さらには、収入がそれほど高くない人は、エクスチェンジで購入した保険の保険料に対して補助金を受け取れるようになった。
一番困るのは保険会社
トランプ氏がこの保険料に対する補助金や個人加入義務を廃止すれば、保険に加入するのは病気を持った人ばかりとなり保険料は高騰する。結果として加入する人はいなくなり、いずれエクスチェンジ自体が消滅してしまうと考えられる。
貧困層向けの公的保険であるメディケイドの拡大もかなり不十分なものになる可能性がある。その結果、2200万~2500万人が健康保険を失うことになる。
財源不足の問題も出てくる。財政調整によって影響を受けるのは主にオバマケアの財源を確保する仕組みでもあるため、結果的に大幅な財源不足になり、2018年には政府の損失は400億ドルにもなると推定されている。そのような変更が実際に導入されるまでに2年ほどの時間をかける必要があるため、変化はすぐには起こらないものの、オバマケアによって国民皆保険制度の達成を目指していたアメリカは大きく後退すると考えられる。
トランプ氏が急いでオバマケアに大幅な変更を加えた場合、一番困るのは保険会社である。保険会社は既往症があることで保険の加入を拒否したり、保険料を高く設定したりできないためだ。多くの人は、健康なうちは保険に入らずに、病気が診断されてから保険に入るようになる。がんと診断されてから健康保険に加入する人もでてくるだろう。そうすると、保険加入者は病気を持っていて医療費を多く使う人ばかりになり、成り立たなくなる。
保険会社から大反発を受けることや、現場の混乱で支持率が下がることをトランプ氏が望んでいないとすれば、オバマケアを骨抜きにすることなく、小幅な変更にとどめて、名前を「トランプケア」と変えて継続する可能性もあるのではないか。オバマケアの一部維持を検討し始めたトランプ氏は今後も目まぐるしく方針を変えていくはずであり、当面は目を離せそうにない。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら