まずは自己啓発本を捨てよう

”戦う哲学者”中島義道氏に聞く(下)

でも、そういうきつい時代は、今の時代のような不幸がないかもしれない。おカネを儲けるなど、毎日の生活を維持することが最高の価値ですから、それで気が紛れるんです。人生の目標は「どうやったら飢え死にしなくて生きていけるか」というイメージだったのです。今の社会では、すべての人が大学に行ける。おカネにも余裕があって、自分で車も買えるし、女の子たちを喜ばせるいろいろな物を獲得しうる。すべてチャンスは与えられている。だけど負ける人がいる。これはきついですよね。

今の若者が欲しているもの

こういう社会では、労働で勝ち得たものや努力して得たものには、比較的価値がなくなってしまう。われわれの世代は、豊かな生活とか、権力を持ちたいとか、有名になりたいという欲望が露骨にあったんですけれども、今の若い人は、車も液晶テレビも海外旅行も別に欲しいと思いません。

――今、価値があるものとは?

今、すべての人が欲しいのは、広い意味の「知的能力」でしょう。成熟した脱工業社会の日本では、もはやほとんどの人には大学に行って知的職業に就くしかありません。誰にとっても要求されることのレベルがものすごく高くて、英語もコンピュータもできるのが当然になってしまっている。ところが、人間は生物でそんなに急激には進化しないから、頭の悪い人はいっぱいいるでしょうし、基本的には変わらないんですよ。

結局は、頭がいいとか、育ちがいいとか、男ならかっこいいとか、女ならかわいいとか、素質的なものに価値が置かれるようになる。

――素質で勝負するようになると、もう能力差は最初から変えられないのでしょうか。

変えられないこともないけれども、どんな努力をしても歴然とありますね。中学、高校くらいになると必ず負け組ができるでしょう。とてもかわいらしくてみんなに好かれる子と、比較的嫌われる子が出てくる。これはもう、初めから勝負はついていますよね。

それ以上に、今はコミュニケーション能力が欠けていると、とても生きにくい社会です。今の若い人たちは大変だなあと思います。こういう社会に適応した人は楽だけれども、適応しない人はみじめでしょうね。

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