「マイクロファイナンス」の幻想と真実 貧困層支援協議グループのCEOに聞く

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日本の消費者金融とマイクロファイナンスとは違う

――日本では消費者金融とマイクロファイナンスは同じという指摘があります。

同じだとは思わないし、むしろそうでないことを願っています。消費者金融は家庭での消費を増やすために与信をします。マイクロファイナンスは生活を活性化させるため、保険や貯蓄も含んでいます。消費者金融であるはずがありません。

――インドのアンドラ・プラデシュ州ではマイクロファイナンスによる過大な貸し付けで、多重債務を抱える人が続出しました。こうした問題はマイクロファイナンスが抱える大きな問題ではないのですか。

これはマイクロファイナンスが抱える本質的な問題ではありません。そもそも多重債務自体が悪いとは限らない。われわれは住宅ローン、教育ローン、自動車ローンなどさまざまな債務を持っています。ただ、自分の収入にそぐわない水準で借り入れてしまうことは問題です。

アンドラ・プラデシュ州では商業型のマイクロファイナンス機関が急速に増えたことに加え、国が補助金を出したり、高利貸しが多くいたことで、与信をやりすぎた状態でした。マイクロファイナンス機関や金融機関が顧客をもっと理解していれば、あるいは金融機関同士で信用情報をお互いに共有できていれば、こうした問題は起きなかったはずです。

イノベーションは途上国で起こる

――今後、マイクロファイナンスの方向性はどうなっていくと考えているのでしょうか。

先進国にある製薬会社や日用品メーカーのトップは、未来の10億人の顧客がどこにいるか、よく認識しています。携帯電話会社や、関連するテクノロジーの企業は重要な役割を果たすことが求められます。一方で金融機関ではそういった認識が遅れています。

途上国の政策決定者や政治リーダーは、マイクロファイナンスを含めた金融包摂(金融サービスのアクセス改善により、貧困を削減する取り組み)の重要さを認識しています。

今後、15年以内には商品やビジネスモデルがもっと進化するし、政策や規制面においてよりよい方向に向かっていくと考えられます。これからのイノベーションはエムペサのようにニーズのある途上国で起きるでしょう。

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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