マニュアルで教えられないことを教える方法 一流に学ぶOJTの作法(1)

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教わる側のポイント

つまり、教わるという受け身な立場の側に、教える側を教える方向へ誘導するような工夫がないと、OJTはそもそもうまく働かない仕組みなのです。

だから、OJTでは教わる側の心構えと姿勢が非常に重要な要因になります。先輩から指導をしてもらうためには、まず後輩側がそれを積極的に受け取る姿勢を示すことです。

たとえば、先輩に自分からあいさつをすること、教えてもらったことにお礼を言うこと、教えられた内容をメモにとり確認すること。そんな地道な行為を繰り返すことが、教える側の「積極的に教えよう」という気持ちを作ることになります。

舞妓さんの例で言えば、注意されたことを「ありがとうございます」と素直に受け取り、感謝する。そして、すぐに指摘されたことを実行する。

この姿勢を自然に身に付けていることがポイントなのです。そして、その舞妓さんの一生懸命に学ぼうとする様子を見て、先輩の芸妓さんは、またこの舞妓さんに教えてあげようという気持ちになるのです。

仕込みさん時代の教育については、書籍『舞妓の言葉』で詳しく解説している。

では、教えられる側のこのような姿勢を、誰が責任を持って若い人たちに教えているのでしょうか? そこまでOJTの現場に丸投げしてはいないでしょうか?

舞妓さんは、仕込みさんの期間中に、「教えてもらえる準備」をすることの重要性を、一緒に生活する置屋の経営者や先輩たちから徹底的に教育されています。

「教わる姿勢」を作る必要性を組織の管理者や運営側が考慮し、新規参入者に教育していくこと。それが、OJTを円滑にするための必要条件なのです。

教える側のポイント

舞妓さんの事例からわかるように、OJTの現場に出ても、教わる準備が整っていないと、指導者側の教えをまっすぐに受け取ることができません。

さらに、教わる準備ができているからといって、教える側は何もしなくてもいいわけではありません。

教える側のポイントは、現場で積み重ねられてきたこと、自分が獲得してきた経験に基づく智恵の勘所を、相手のレベルに応じてわかりやく言語化することです。
間違いを注意することだけでは不十分です。また、改善方法は見ていればわかるといったあいまいな指導では、経験の乏しい新人の側に混乱を招き、ひいてはせっかく芽生えた「教わろう」という意欲の減退にもつながります。

ですから、先ほどの事例で芸妓さんが言葉にしたように、「おいど(お尻)に手をあてる」といった、相手のレベルに応じたわかりやすい言い方で、どうすれば同じ失敗を2回しないように行動を改善できるのかを、その場で教えることが必要なのです。

このため、教える側には、一緒に仕事をする人たちの様子を日頃から観察し、技能レベルに応じて簡単に実行できるような行動を明確に指摘する能力が必須です。

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